Rosano et al. (2023). Increase in skeletal muscular adiposity and cognitive decline in a biracial cohort of older men and women.

異所性脂肪という言葉を聞いたことがありますか?

脂肪肝という言葉は耳にされたことがあると思います。肝臓や筋肉などに蓄積した脂肪のことを異所性脂肪といいます。

今回は筋肉の異所性脂肪が認知機能低下と関係しているという研究をご紹介します。

69歳から79歳の男女1634人を対象に行われた研究で、大腿部の筋肉間脂肪をCTで評価しました。認知機能は研究開始から1、3、5、8、10年目に評価されました。

大腿部の筋肉間脂肪面積は研究開始から6年目で4.85 cm2増加し、認知機能スコアは6年目から10年目までに3.20点下がっていました。この筋肉内の異常な脂肪蓄積は認知機能スコア3.60点の低下に相当していました。人種や性別による相互作用は見られませんでした。

筋肉内の脂肪組織の増加は、体全体の脂肪量や筋肉の質・量とは独立して認知機能の低下を予測できるようです。糖尿病や高血圧があってもこの関係は変わりませんでした。

高齢者全員にCT検査を行って筋肉内の脂肪量を評価するのは現実的ではありませんが、脂肪肝も含めて異所性脂肪と健康の関係は最近注目されている分野です。

内臓脂肪と同じように糖尿病、動脈硬化、心血管病(脳卒中や心臓病)のリスクであることが明らかになってきていて、体重やBMIだけでは分からないことが分かるようになってきました。

痩せている人でも隠れ脂肪肝が結構多いように感じます。

外見で分かるのは皮下脂肪ですが、皮下脂肪と内臓脂肪は別物で、それぞれ働きが異なります。

筋肉内に脂肪が蓄積すると筋肉の働き・質が悪くなります。

日ごろからよく体を動かして筋肉を使い、筋肉に脂肪がつかないようにしましょう。皮下脂肪は運動でなかなか減りませんが、内臓脂肪は運動で効果的に減らすことができます

この研究では太ももの筋肉を評価していましたが、足をよく使うことです。

やはり、スクワットと歩くことが王道なのです。


大学のサイバーセキュリティ

先日…University of Manchesterが大規模なサイバーアタックを受け、学生や大学職員の情報漏洩が起きたというとんでもない連絡が来ました。

まだ全容が明らかになっておらず、私の個人情報がどうなったか分かりません…。

「7テラバイト相当のあらゆる情報を盗んだ。大学関係者とこの件について議論したが、彼らは情報よりもお金が大切らしい。まもなくすべての情報が公にされることになるだろう。もしも大学関係者が適切な対応を取らなければ、学生たちの個人情報はブラックマーケットに売りさばかれるだろう」

という脅迫メールが大学院のメールアドレス宛に送られてきました。

一体どうなってるのでしょうか?

こんな経験は長い学生生活で始めてです。

BBCでもニュースになっているようです。

しっかりしてくれよ、University of Manchester。

大学からは結構頻繁に「この問題が一日でも早く解決するように全力を尽くしている、サポートの必要な学生は連絡をくれ」というメールが来ますが、早々に誰のどんな情報が盗まれたのかちゃんと調べてほしいものです。

大学が取った対応のひとつがExperianというデータ分析ツールの有料サービスを1年間使えるようにするというものでした。

As part of our cyber incident response, we are offering all taught students a free, 12-month subscription to Experian’s identity monitoring service.

このサービスでは私の個人情報は漏れていないという判定でしたが、不安は払しょくできません。

英国の国立大学のサイバーセキュリティレベルがどれくらいか全く分からないのですが、腐っても世界大学ランキング上位校なので、それなりのものが備えられていた、と信じたいところです。

日本ではお粗末なマイナンバーカードのセキュリティ問題が連日報道されていますが、つまり、完全無欠のサイバーセキュリティは不可能ということでしょう。

どのようなデジタルサービスを利用するにしてもサイバー攻撃によって個人情報が危険にさらされるリスクは織り込み済みと考えなくてはなりません。

利便性と安全性はトレードオフ関係なのか、両立できるのか

サービスを完全に信用せず、リスクを減らす努力を続ける、今のところこれしかない気がしますが、量子暗号とか実用化されたらサイバーセキュリティは劇的に良くなるのでしょうか。

技術的なことはほとんど理解できていないのですが、いたちごっこになる予感がします。

Bevel et al. (2023). Association of Food Deserts and Food Swamps With Obesity-Related Cancer Mortality in the US

米国では、野菜などの生鮮食品が入手困難な地域は“Food Desert”(食の砂漠)と呼ばれ、ファストフード店が多く生鮮食品を取り扱う店が少ない地域は“Food Swamp”(食の沼)と呼ばれているそうです。

そのような地域特性と肥満に関連したがんによる死亡との関係を調べた研究です。

肥満に関連したがんは、子宮内膜がん、食道腺がん、胃噴門部がん、肝臓がん、腎がん、多発性骨髄腫、髄膜腫、膵臓がん、大腸がん、胆嚢がん、乳がん、卵巣がん、甲状腺がんの13種類です。

Food Swampの指標として、食料品店や野菜などの直売所の数に対するファストフードやコンビニの店舗数の比率をスコア化し、Food SwampとFood Desertのスコアが高ければ(20.0~58.0)、その地域は健康的な食料品が少ないと判定されました。

以下、結果の要点です。

肥満関連のがん死亡率が高い地域は、死亡率が低い地域と比較して、貧困率が高く、肥満率が高く、糖尿病が多かった

Food DesertとFood Swampの両スコアが肥満に関連するがんの死亡率と正の相関関係があり、Food Swampスコアが高い地域では、肥満に関連するがんによる死亡のオッズが77%増加した

妥当でよく分かる結果ですが、注目すべきは貧困と健康的でない食生活の関係が示されている点(論文では黒人住民が多い点も言及されています)です。

肥満や糖尿病のリスクを上げる健康的でない食料品は、比較的安く簡単に手に入るものです(例えばカップラーメンや菓子パンなど)。

一方、健康的な食料品は概して高く、一部はプレミアムもついて、誰もが簡単に手に入れらるものではありません。

食事は健康の基本です。患者さんには体に良い食事を摂りましょうといつもお話し続けています。

しかし、貧困という大きな社会問題を何とかしなければ、食と健康の問題もまた解決されずに残り続けるわけです。

貧困問題はそう簡単には解決しません。

健康的な食料品の価格を下げる方が見込みがありそうですが、果たして実現可能でしょうか?

今後、食糧難の時代がやって来るとも言われていますが、その時、食生活が関連する病気は減るのでしょうか、それとも増えるのでしょうか?

道場における作法

武道は礼に始まり礼に終わる、と言われますが、日々の稽古において、稽古開始時と終了時に必ず座礼をします。

必ず、です。今まで5000回以上稽古してきましたが、座礼は決して欠かしません。

また、組手では必ずお互いに礼をしてから始めます。

必ず、です。礼をせず、相手に敬意を持たずに行う組手はケンカと同レベルです。礼をすることによってお互いに高め合う準備をします。

また、道場に出入りする際も礼をします。

他にもいろいろと「作法」がありますが、道場によって異なります。

武術・武道を指導する立場になり、私が道場生に求めた作法は稽古後の掃除です。

公共施設を使わせていただく中で稽古後の掃除は義務ではありませんでしたが、私と道場生みんなで毎回掃除をするようにしてきました。日本人の感覚からすれば当たり前のことでしょう。

鹿児島に戻り常設道場で稽古するようになりましたが、そこで驚いたのが道場生のお母様の作法でした。

稽古終了後に道場床のモップ掛けを子どもたちにさせているのですが(子どもたちにとってはちょっとした遊びになっています)、ある道場生のお母様(親子で道場生)が毎回トイレ掃除をしてくださるのです。

私から頼んではいませんし、トイレ掃除までしなくてもよいのですが、稽古に参加されたその日から自発的にしてくださっています。

先日はその方の旦那さんもトイレ掃除をしてくださいました。そういうご家庭なのですね。

私は鹿児島生まれ鹿児島育ちですが、しばらく東京に住んでいました。

以前、鹿児島の子どもたちが横断歩道を渡った後、待ってくれた車に一礼するのを見て大変驚きました。東京では見ない光景です。

鹿児島は少し特殊なのかもしれませんが、徐々に薄れてきてはいるものの、旧薩摩藩の教育理念が子どもたちの教育に残っているのかもしれません。

道場で見る道場生によるトイレ掃除が鹿児島では当たり前で東京では当たり前ではないのかは分かりません。

(土地柄の違いというより、武術・武道を学ぶために道場に通う人は掃除や礼を重んじる傾向があるのかもしれない)

この作法が道場で受け継がれていくことを期待しています(自分でトイレ掃除したくないわけではありません笑)。

Tamura et al. (2023). Dietary carbohydrate and fat intakes and risk of mortality in the Japanese population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study

糖質制限食の健康効果について侃侃諤諤の議論が始まり久しいですが、糖質制限した方が長生きするのかそれとも糖質制限しない方が長生きするのかはまだ明らかではありません。

糖尿病患者さんの治療において、血糖値を適正な値に下げ、合併症の進行を防ぎ、天寿を全うすることが大目標なので、血糖値を上げない糖質制限食の長生き効果はとても気になるところです。

過ぎたるは猶及ばざるが如し、と昔から言われるように、糖質制限もほどほどが良いのではないかというのが私の考えですが、糖質制限食と死亡の関係について一石を投じる研究が日本から発表されました。

以下にAbstractをChatGPT先生に訳してもらい私が修正したものを載せます。コメントはその下に書きます。

背景
過去のコホート研究では、食事中の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連について、相反する結果が見られる。

目的
炭水化物と脂質摂取量と死亡率との長期的な関連を調べた。

方法
このコホート研究では、34,893人の男性と46,440人の女性(年齢35〜69歳、平均BMIはそれぞれ23.7および22.2 kg/m2)が、2004年から2014年にかけて行われたベースラインの調査から2017年または2018年の終わりまで追跡された。炭水化物、脂質、および総エネルギー摂取量は、食事頻度調査票(FFQ)を使用して推定された。炭水化物と脂質のエネルギー摂取量に基づいて、死亡のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)が推定された。

結果
平均8.9年の追跡期間中に、2,783人(男性1,838人、女性945人)が死亡した。炭水化物によるエネルギー摂取の占める割合が50%から55%の男性と比較して、炭水化物によるエネルギー摂取が<40%の男性は全死亡のリスクが有意に高かった(HR:1.59、95%CI:1.19〜2.12、P-trend = 0.002)。追跡期間が5年以上の女性の中では、炭水化物摂取量が多い女性は全死亡のリスクが高かった。炭水化物によるエネルギー摂取が50%から<55%と比較して、炭水化物によるエネルギー摂取が≥65%の場合、HR(95%CI)は1.71(0.93〜3.13)であった(P-trend = 0.005)。脂質摂取量が高い男性はがんによる死亡のリスクが高かった。脂質によるエネルギー摂取が20%から<25%と比較すると、脂質によるエネルギー摂取が≥35%の場合、HR(95%CI)は1.79(1.11〜2.90)であり、(P-trend = 0.054および0.058)。脂質摂取量は女性において全死亡およびがん死亡のリスクと逆相関する傾向がみられた(P-trend = 0.054および0.058)。

結論
男性の低炭水化物摂取と女性の高炭水化物摂取は、死亡と関連することが示された。炭水化物摂取量が比較的高い日本の成人女性の間では、脂質摂取量が高いと死亡リスクが低い可能性がある。

著者らも研究の限界で述べているように、FFQでの食事調査はベースラインのみで追跡期間中には再評価されていません。例えば、途中で糖尿病など生活習慣病を発症したり、仕事が変わったり、家族が亡くなって食生活が変わることだってあるわけです。これは大きなlimitationでしょう。

また、FFQは妥当性の高い質問紙票とは言え、主観的データですしバイアスが入るのはどうしようもありません。人間の食事摂取を正しく評価するのは難しく、このような研究の本質的な問題ですが、AIなんかによって何とかならないでしょうか?

私が疑問に思ったのは、なぜ炭水化物と脂質だけ評価して三大栄養素のもう一つタンパク質は評価しなかったのか?という点ですね。

最近、高齢者はもっとタンパク質を摂った方が良いなどと議論されていますし、タンパク質摂取量も調べて三大栄養素バランスを見て検証するべきだと思います。

炭水化物摂取量と死亡との関係で男女差があるのは謎ですね…。

多くの被験者を比較的長い期間追跡して調べた興味深い研究だと思います。

日本の大切なデータとして紹介させていただきました。

今だけ、金だけ、自分だけ

ネットやソーシャルメディアでしばしば目にするのですが、世の中が刹那的で利己的で、拝金主義が蔓延していることを嘆く、東京大学鈴木宣弘教授のお言葉のようです。

(鈴木先生のことはよく存じませんが、日本の食糧自給率を向上させるように訴えていらっしゃるようです。この記事は鈴木先生の主義主張とは全く関係ありません)

言い得て妙だな、と思います。

この言葉は人間の発達段階に当てはめて考えると、共感力が発達していない3歳児くらいのレベルを思い起こさせます。

今が楽しくて、食べたいものだけをお腹いっぱい食べて、自分の望みだけ叶ったら、幸せ

現代社会は幼稚である、と言われているような気がします。

ティール組織の組織モデルの進化段階になぞらえば、完全に「レッド」(衝動型)です。

現代社会は実は原始的である、ということかもしれません。

3つの中で”今だけ”と”自分だけ”はある意味仕方がないことかな、とも思います。

人間は進化してきた生命体とは言え、三次元の生き物であることに変わりはないので、今という時間と自分の個体を最も大切にするのは生き残るために必要な戦略です。

しかし、”金だけ”はなんというか、個人の価値観の問題とは言え、合理性もない気がします。

そもそも、お金はそれだけでは価値を持ちません。

とはいえ、お金がなければ生活できないですし、お金が人生を豊かにしてくれる手段であることも間違いありません。私もお金を増やしたいと思いますし(なぜ増やしたいのかよく考えるとよく分からなくなるけど)、将来のことを考えてお金の心配をします。

ある意味お金に捉われています。

資本主義経済の世界に生きる上ではお金に依存するのは仕方がないことですが、これからの時代、資本主義に代わるイデオロギーというかシステムが果たして生まれるでしょうか?

それは人間社会最高のイノベーションになるかもしれません。

「時」も「お金」も「自分」も”だけ”では世の中成り立ちません。確かに今だけ、金だけ、自分だけの人がいる一方、誰かが世の中を支えています。

21世紀に入りすでに20年以上経ちましたが、人間のコミュニティは実生活とネット上に無数に存在するようになりました。

今だけ、金だけ、自分だけ、は旧世紀的思考なのかもしれません。若い人たちはきっとそんな風には考えていないでしょう(そう信じています)。彼らにとって老害になりうる私たち以上の世代がお金や自分の利益だけに囚われてしまっているのではないか。

時代は動いている気がしています。

マインドフルネスの効果

現代社会を生き抜くために、マインドフルネスが有効であると言われて久しいですが、マインドフルネスが心だけでなく体に良い効果がないかはまじめに研究されています。

まず、ChatGPT先生にマインドフルネスの定義について聞いてみました。

マインドフルネス(mindfulness)は、仏教の教えや瞑想の実践に基づいているが、現代の心理学やストレス管理の分野でも注目されている概念です。マインドフルネスとは、意識的な注意のあり方や心の状態を表す言葉であり、現在の瞬間に対して開かれた、受け入れの姿勢を持つことを指します。

具体的には、マインドフルネスとは以下のような要素を含んでいます:

現在の瞬間への意識:マインドフルネスでは、現在の瞬間に集中し、過去や未来の思考にとらわれることなく、現在の経験に意識を向けます

非判断的な受容:マインドフルネスでは、心の中に湧き上がる感情や思考を受け入れる姿勢を持ちます。過去の経験や将来の期待に基づいて判断するのではなく、現在の状況を受け入れることが重要です。

非反応性:マインドフルネスでは、感情や思考に対して執着や反応を抑えることを目指します。思考が浮かび上がっても、それに固執せず、客観的な視点から観察することが求められます。

集中力と自己観察:マインドフルネスの実践では、瞑想や特定の活動に集中することによって、自己観察を深めます。自分の感覚や感情、思考を客観的に観察し、自己の内面の状態を理解することを目指します。

マインドフルネスは、ストレス軽減や感情の調整、集中力の向上、自己認識の促進など、さまざまな効果が期待されています。瞑想や特定の運動、日常生活の中での意識的な行動などを通じて、マインドフルネスを実践することができます。

ものすごく簡単に言うと、マインドフルネスとは現在の自分に集中していろいろな物事に囚われずありのままの自分を受け入れること、です。

瞑想と似通った点もあり、ストレスや不安障害・うつ病に対する効果が過去の研究で報告されています。

実は糖尿病にも良いようで、HbA1cを下げる効果が複数のシステマティックレビューで報告されています。

生物学的な作用として、インターロイキンなどの炎症を起こすサイトカインを減らす、自律神経バランスを整えて血糖コントロールを安定させる、ストレスに対する下垂体-副腎系の反応を調節する、などが考えられていて、今後のさらなる研究も期待されています。

メインは心理療法・認知行動療法としての作用ですので、マインドフルネスが病気を治すわけではありません

しかし、糖尿病などライフスタイルに関連した病気は自己管理が必要とされるので、マインドフルネスは治療に役立つのです。

瞑想でご紹介した腹式呼吸と合わせて、初めは自己流でもよいので、一日のうち数分間、現在の自分に集中して物事に囚われない時間を作ってみましょう。

私にとってそれは稽古の時間ですが、ある人にとっては料理の時間だったり読書の時間だったりするわけです。

本当のマインドフルネスは特別なセッティング(例えば、大人数でヨガをやるような広いスペースや自然豊かな森の中)を必要としません。

どんな環境であってもちょっとした時間でマインドフルネスは実践できます。ぜひ。

学生メール誤送信事件

数十~数百名規模のメーリングリストに返信してしまい、登録者全員に個人的なメールを誤送信してしまった経験ありますか?

幸い、私はありませんが、つい先日、UoMの学生(中国人)のメール誤送信事件がありました。

それに対する他の学生のリアクションが面白くもあり残念でもありました。

彼女のメールはこうです。

「ご担当者様へ お元気のことと思います。私は4月に最後の学位論文を提出したのですが、いつ成績が分かりますか?たぶん電子版でいただけるのではないかと存じます。現在就職活動中で成績の提出が必要です。よろしくお願い致します。」

至って普通のメールです。きちんと担当者に送られていれば。

どういうわけか、彼女はこのメールをFaculty of Biology, Medicine and Health, University of Manchesterの全員が登録しているメーリングリストに送信したのです。

(誰に送ればいいかわからなかったのでとりあえず全員にという発想だったのか?)

さらに、メールを送信した時間が問題でした。

JSTで13:20となっているので、英国では午前4:20頃です。彼女は中国に住んでいて(オンライン大学院の学生かもしれません)中国時間で何気なくメールを送ったのかもしれませんが、英国で学ぶ学生たちはまだ寝ている時間です。しかも日曜日で試験・レポート提出期間の真っただ中でした。

どうやら、スマホで大学からのメールにアラーム設定をしていた学生が大勢いたようで、彼女に次々と返信が届きました。

「朝5時にこんなメールを送るなんてどうかしている」

「あなたは他の人の生活なんてどうでもいいの?」

「ここは学生のメーリングリストだから聞く場所を間違っていると思うよ」と優しく諭すものもありましたが。

事態を悪化させたのが、他の中国人たちのリアクションです。

(たぶん)同じ中国在住のオンライン大学院の学生と思われる人たちがアドバイスやら注意やら中国語で次々と返信しまくったのです。

これでアラーム設定をしていた英国在住あるいは欧州の学生たちが(たぶん)激怒し、「あなたたちのせいで完全に目が覚めてしまった」と非難のメールを送りました。

本当はメール誤送信した学生がすぐに謝るべきで、そうすれば事態はここまで悪化しなかったと思うのですが、その後彼女は謝るどころかこの事態から姿を消してしまったのです。

怒る欧州の学生たちに対して、中国の学生が「まあまあ、funnyなことなんだからそう怒らずに冷静になろうよ」と全く空気の読めないメールを送ってしまい、(たぶん)欧州の学生たちは完全にキレてしまい、何十名もの学生たちが、

Please remove me from this mailing list!

と送信。

英国・欧州の学生たちは日曜日の朝から大変なことになったようです。

私は参戦せず横目で眺めているだけでしたが、中国 vs 英国・欧州の学生闘争を垣間見ました。

国によって文化は異なり、グローバルな正しさってよく分かりませんが、とりあえず一言謝ればよかったのに、と。

大学院は自分一人で学ぶ場ではありません。仲良く学ぶ上で、礼儀正しさを身につけることも大切ですね。

Pan et al. (2023). The Comparative Effectiveness and Safety of Insomnia Drugs: A Systematic Review and Network Meta-Analysis of 153 Randomized Trials

夜ぐっすり眠れない人は多いですが、簡単に睡眠薬を飲むことはお勧めできません。

特に、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は依存性が高く、翌日の眠気やふらつき、筋力低下や転倒、さらには認知機能の低下といった多くの副作用を起こすリスクがあるためできるだけ使用しないようにしています。

睡眠薬に関する153ものRCTをシステマティックレビュー・メタ解析した論文が発表されました。

プラセボと比べて睡眠時間を有意に改善したのは、非ベンゾジアゼピン系、抗うつ薬、オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ🄬/ベルソムラ🄬)でした。

今回はAbstractではなく、Discussionの冒頭にある結論部分を日本語訳します。※🄬は日本における先発医薬品の販売名です。

46,412人の参加者を登録した153の臨床試験を解析し、エビデンスの確実性が中くらいから高いものを報告した。

非ベンゾジアゼピン系薬が客観的な眠るまでの所要時間(=SOL)(エスゾピクロン(ルネスタ🄬)で-16.64分、ゾピクロン(アモバン🄬)で-16.26分)、主観的なSOL(ゾピクロンで-40.87分)、客観的な中途覚醒(=WASO)(ゾルピデム(マイスリー🄬)で-15.40分)、主観的なWASO(プロポフォール(ディプリバン🄬)で-50.35分)の短縮において最も効果的な薬物の一つであることが示された。

また、非ベンゾジアゼピン系薬は客観的な総睡眠時間(=TST)の延長(ゾルピデムで28.42分)、主観的なTSTの延長(プロポフォールで102.42分)、および睡眠の質の改善(エスゾピクロン)においても最も効果的であることが示された。

エビデンスの確実性はやや劣るが、抗うつ薬も客観的なTSTの増加(ドキセピン(日本では未発売)で23.97分、ミルタザピン(リフレックス🄬)で47.20分)、主観的なTSTの増加(パロキセチン(パキシル🄬)で170分)、および睡眠の質の改善(ミルタザピンとトリミプラミン(スルモンチール🄬))において有効で、主観的なWASOの短縮(ミルタザピンで-17.70分)とSOLの短縮(パロキセチンで-41.00分)も認められた。

一方、オレキシン受容体拮抗薬は客観的なWASOの短縮(スボレキサント(ベルソムラ🄬)で-25.17分)、客観的なTSTの延長(レムボレキサント(デエビゴ🄬)で58.15分)、および主観的なTSTの延長(スボレキサントで22.92分)と関連していました。

メラトニン受容体作動薬は主観的および客観的なSOLの短縮(ラメルテオン(ロゼレム🄬)で-12.88分)と関連していました。

ベンゾジアゼピン系薬の使用は主観的なSOLを短縮させなかった(4.46分)。

(略語が多く読みにくくてすみません)

非ベンゾジアゼピン系よりベンゾジアゼピン系の方が効果は強い印象があったのですが、このメタ解析の結果を見るとそうでもないようです。

そうすると、ベンゾジアゼピン系は患者さんにとって不利益が多く大して有効でもない睡眠薬という位置づけになります。

やはり、使うべきではない薬の一つですね。

Riddell et al. (2023). Is There an Optimal Time of Day for Exercise? A Commentary on When to Exercise for People Living With Type 1 or Type 2 Diabetes

今回は研究論文ではありませんが、糖尿病患者さんの運動のタイミングについてまとめられたものがあったので紹介したいと思います。

私の注目する「時間運動生理学」と深く関連する分野です。

1. 朝か夜か

““Chronotype” is a term used to describe individuals’ preference for being a “morning person” or an “evening person” with respect to sleep patterns, physical activity patterns, work preferences, eating patterns, and energy levels. In general, individuals who are early chronotypes tend to do more physical activity in the morning and have greater overall daily energy expenditure than those who are late chronotypes. Early chronotypes also have less risk for cardiometabolic disease over their lifetime. In type 2 diabetes, having a late chronotype is associated with greater caloric intake at dinner, later bedtimes, later wakeup times, and higher A1C levels.”

「クロノタイプ」は、睡眠や身体活動、働き方、食事時間などが「朝型」か「夜型」かといった個人の特性を表していますが、概して「朝型」の人は「夜型」の人より活発でエネルギー消費が多いようです。

また、2型糖尿病患者さんにおいて、「夜型」の人は夜食べ過ぎて寝るのが遅くなる傾向があり、血糖コントロールも悪いことが分かっています。

1型糖尿病患者さんにおいても、夜運動をすると寝ている間に低血糖を起こすリスクが上がるため、どちらかというと午前中の運動が良いのでは?と書かれていました。

2. 食前か食後か?

“However, a recent systemic review suggests that postmeal mild to moderate activity may be the more favorable approach for limiting postprandial glucose excursions, at least in individuals with prediabetes or type 2 diabetes. Postmeal exercise has an acute glucose-lowering effect, as muscle contractions enhance skeletal muscle glucose uptake. Because of the acute nature of this mechanism, completing activity after each meal is likely more beneficial than only completing activity after one meal in people with prediabetes or type 2 diabetes.”

最近のシステマティックレビューによると、2型糖尿病患者さんは食後に、さらに食事を摂ったら毎回運動することで筋肉による糖取り込みが増え血糖値が下がることが分かっています。

グルコーススパイク―食後高血糖が隠れている前糖尿病段階の人ほど食後の運動効果が高いのかもしれません。

食事ごとにインスリン注射が必須の1型糖尿病患者さんの場合、高強度インターバルトレーニング(HIIT)や筋力トレーニング以外の有酸素運動であれば、食前に運動した方が運動後の低血糖リスクが減り良いのではないか?ということでした。

以下Summaryの日本語訳です。

日中の運動時間と糖尿病患者の健康状態や血糖値との関係に影響を与える潜在的なファクターの数の多さを考えると、現在の研究結果が常に一貫していないことは驚くことではありません。しかし、現在のエビデンスにはいくつか共通点があり、将来、研究の焦点となるべきものが示されています。

まず、運動は一般的に、いつ行われるかやその強度に関係なく、糖尿病患者の全体的な健康状態と血糖値を改善します。したがって、実践的な観点から見れば、糖尿病患者にとって最適な結論は、自分ができる運動ルーティンをつくることです。いつでも運動するのが最適であり、自分の生活リズムを考慮して、最適なの運動プログラムを作成することが重要です。

一部のエビデンスによれば、1型糖尿病の患者は、午前中に軽度から中強度のトレーニングを継続することで、健康になり低血糖症のリスクが下がる可能性があります。一方、午後に運動する1型糖尿病の患者は、有酸素運動(持久力トレーニング)よりもHIITや筋力トレーニングの方が血糖変動の管理により有益であるかもしれません。

もう一つの共通点は、食前の運動がインスリン感受性を向上させる一方、食後の運動が糖尿病予備群や2型糖尿病患者の血糖値を最も低下させるということです。食後の運動”exercise snack”または”burst”(つまり、各食後の短時間の運動や階段の上り下り)が、一日を通じて血糖値を管理するために効果的な方法となる可能性があります。

1型糖尿病の患者において、血糖値に影響を与えるファクターはやや複雑です。食後の有酸素運動は血糖値低下に有効ですが、低血糖のリスクが高まることを考慮する必要があります。したがって、有酸素運動の時間と強度は1型糖尿病の状態に合わせて調整されるべきです。低血糖発作が懸念される場合、食前の有酸素運動やHIIT、または食前・食後の筋力トレーニングが1型糖尿病の患者にとって有益かもしれません。運動のタイミングに関わらず、1型糖尿病の患者にはCGM(持続的な血糖モニタリング)と血糖トレンドに基づいた炭水化物の摂取が推奨されます。

糖尿病など病気をお持ちでない人の最適な運動のタイミングは分かりませんが、血糖値に関して言えば、一日の早い時間帯(午前中、遅くても夕食前まで)に運動をする方が良さそうです。

そして、夕食は少なめにすることです。