呼吸は自律神経系のフィードバックを通じて身体操作に影響を与えますが、運動の記憶にも影響を与えるのではないかという研究があります。
インド人研究者によるDeep Breathing Practice Facilitates Retention of Newly Learned Motor Skillsというタイトルの論文を紹介します。
この研究では、深い呼吸(交互鼻孔呼吸:ヨガの呼吸法の一種で、左右の鼻孔から交互に呼吸することで、心身のバランスを整える)による簡単な呼吸トレーニングが、運動記憶の保持に効果があるか科学的に検証しました。
被験者は健康な若者40名で、3つのグループに分けられました。被験者たちは、画面上の円形パスをペンで正確になぞる課題を100回行い学習しました。その後、各グループはそれぞれ次のようなプログラムに参加しました。
- BREATHING_IMM群(n=16):学習直後に30分の交互鼻孔呼吸を実施し、その後にテスト(100回)。翌日(24時間後)に再度テスト(100回)。
- CONTROL群(n=14):30分間安静に座るのみ。
- BREATHING_LATE群(n=10):学習後30分間はCONTROL群と同様に安静に休息する。その後、テスト(100回)を実施。その後に30分間の交互鼻孔呼吸を実施し、翌日(24時間後)に再度テスト(100回)。
その結果、BREATHING_IMM群は学習直後および24時間後の確認テストの両方で、誤差が少なく、運動記憶の保持ができていました。さらにBREATHING_LATE群も、呼吸トレーニング後に実施された24時間後の確認テストで誤差が減少し、この効果が1日維持されることが示されました。
呼吸トレーニングの神経生理学的背景として、迷走神経の刺激を通じたBDNF(脳由来神経栄養因子)やノルアドレナリンの分泌促進などが運動記憶の定着を助ける可能性があると考察されています。たった30分の呼吸トレーニングが運動記憶に影響を与えるのです。
ヨガがワーキングメモリを向上させる研究は過去にも報告されていますが、呼吸にフォーカスした興味深い研究です。盲検化ができないのでエビデンスレベルは下がりますが、呼吸が体に与える影響の深さを感じさせます。
この研究では交互鼻孔呼吸という呼吸法でしたが、シンプルにゆっくりとした深い呼吸を子どものころから心がけるだけでも、心と体の成長に大きな効果があると考えています。
道場の子どもたちには、鼻を使いゆっくり呼吸するように指導していますが、もしかしたらそのような呼吸が技の上達スピードにも関係しているかもしれません。









