糖尿病の運動療法といえば、有酸素運動が定番です。ウォーキング、軽いジョギング、水泳。
運動で血糖値を下げるには体を動かすことが大事、特に食後に歩いたり有酸素運動を行いましょう—というのが長年の定説でした。
一方、実際の患者さんを診ているとこの定説に疑問を感じることがあります。BMI 22前後の肥満がなく、でも筋肉のつきが悪い印象の患者さんは、適切な食事療法を守り定期的に運動を行い、しっかり薬を飲んでいてもHbA1cがなかなか改善しないことがあります。
そのような患者さんに「もっと糖質を減らして有酸素運動を増やしましょう」と言い続けて本当によいのでしょうか?。
Stanford大学のKobayashi Yukari先生らが、Diabetologiaに「やせ型の2型糖尿病に対する最適な運動療法は何か?」というランダム化比較試験を発表されました。
2型糖尿病は肥満と強く結びついたイメージがありまが、世界的に見ると、アジア系を中心に、BMI 25未満の「やせ型(あるいは標準体重)の2型糖尿病」が相当数存在します。日本もそのひとつです。この患者層は、筋肉量が少ないサルコペニア(加齢や栄養不足などにより筋肉量・筋力が低下した状態)を合併された方が多く、肥満の方とは病態が異なります。
では、どんな運動が効果的なのでしょうか。
研究に対象はBMI 25未満、HbA1c 6.5〜13.0%の2型糖尿病患者。年齢は18〜80歳。外来受診または広告で参加者を募り、筋力トレーニング群(ST群:週3回のレジスタンストレーニング)と有酸素運動群(AER群:週3回のウォーキング・サイクリング等)、ST+AER群に無作為に割り付けました。
筋力トレーニング群は有酸素運動群に比べ、HbA1cの改善が有意に大きく、除脂肪体重(筋肉などの脂肪以外の体重)の増加、体脂肪率の低下も筋力トレーニング群で優れていました。
具体的には、9か月間の介入後:
- ST群:HbA1c −0.44%(統計学的に有意)
- AER群:HbA1c −0.24%(統計学的に有意でない)
- ST+AER群:HbA1c −0.35%
でした。
また、体組成解析の結果、参加者たちは相対的にサルコペニアの状態であり、ST群では筋トレにより脂肪量が低下し、四肢の骨格筋量が増え、脂肪に対する筋肉の割合も改善していたのです。この脂肪に対する筋肉の割合がHbA1c低下と関連していました。
AER群では体重は減っていたもののHbA1cは下がりませんでした。
有酸素運動が意味がないわけではありません。しかし、やせ型の2型糖尿病という集団に限定したとき、筋力トレーニングの方が血糖コントロールにも体組成の改善にも効果が高かったのです。
血糖は筋肉に取り込まれることで下がります。筋肉量が少ないと、血糖を処理できる「器」が小さい状態です。有酸素運動はその器の使い方を改善しますが、筋力トレーニングは器そのものを大きくする。やせ型の糖尿病患者、とりわけサルコペニアがある場合には、器の使い方だけを磨いても限界があるのかもしれません。
肥満がある2型糖尿病患者さんでは有酸素運動+筋トレが最も効果的です。脂肪の減少によりインスリン抵抗性が改善し血糖が下がります。しかし、肥満がない患者さんの多くは相対的に筋肉量が少なく、脂肪を増やすよりも筋肉量を増やす/維持することが大切だと考えられます。
したがって、2型糖尿病患者さんの運動療法は患者さんの体格や病態に合わせて個別化が必要なのです。
この研究における筋力トレーニングは、専門家の監督下で行われた運動プログラムです。実際の外来診療でやせ型の患者さんに「じゃあ筋トレをしてください」と言うだけでは同等の効果は得られないでしょう。どんな筋トレを、どの強度で、どんな頻度で行うかは私たち専門家が指導する必要があります。また、この研究のフォローアップ率は45%と低く、結果の解釈には注意が必要かもしれません。
それでも、このデータは外来の場で患者さんとの会話を変える力を持っています。
やせ型の糖尿病は日本人にも多いです。運動療法の画一的な処方から、体組成に基づく「個別化された処方」へ。
私も日々の診療で心がけたいところです。
(論文はコチラから読めます)
