やせ型の2型糖尿病には、筋トレの方が効く。 — Kobayashi Yukari et al. (2023). “Strength training is more effective than aerobicobic exercise for improving glycaemic control and body composition in people with normal-weight type 2 diabetes: a randomised controlled trial.”

Middle-aged man in gray tank top lifting dumbbells seated on bench

糖尿病の運動療法といえば、有酸素運動が定番です。ウォーキング、軽いジョギング、水泳。

運動で血糖値を下げるには体を動かすことが大事、特に食後に歩いたり有酸素運動を行いましょう—というのが長年の定説でした。

一方、実際の患者さんを診ているとこの定説に疑問を感じることがあります。BMI 22前後の肥満がなく、でも筋肉のつきが悪い印象の患者さんは、適切な食事療法を守り定期的に運動を行い、しっかり薬を飲んでいてもHbA1cがなかなか改善しないことがあります。

そのような患者さんに「もっと糖質を減らして有酸素運動を増やしましょう」と言い続けて本当によいのでしょうか?。

Stanford大学のKobayashi Yukari先生らが、Diabetologiaに「やせ型の2型糖尿病に対する最適な運動療法は何か?」というランダム化比較試験を発表されました。

2型糖尿病は肥満と強く結びついたイメージがありまが、世界的に見ると、アジア系を中心に、BMI 25未満の「やせ型(あるいは標準体重)の2型糖尿病」が相当数存在します。日本もそのひとつです。この患者層は、筋肉量が少ないサルコペニア(加齢や栄養不足などにより筋肉量・筋力が低下した状態)を合併された方が多く、肥満の方とは病態が異なります。

では、どんな運動が効果的なのでしょうか。

研究に対象はBMI 25未満、HbA1c 6.5〜13.0%の2型糖尿病患者。年齢は18〜80歳。外来受診または広告で参加者を募り、筋力トレーニング群(ST群:週3回のレジスタンストレーニング)と有酸素運動群(AER群:週3回のウォーキング・サイクリング等)、ST+AER群に無作為に割り付けました。

筋力トレーニング群は有酸素運動群に比べ、HbA1cの改善が有意に大きく、除脂肪体重(筋肉などの脂肪以外の体重)の増加、体脂肪率の低下も筋力トレーニング群で優れていました。

具体的には、9か月間の介入後:

  • ST群:HbA1c −0.44%(統計学的に有意)
  • AER群:HbA1c −0.24%(統計学的に有意でない)
  • ST+AER群:HbA1c −0.35%

でした。

また、体組成解析の結果、参加者たちは相対的にサルコペニアの状態であり、ST群では筋トレにより脂肪量が低下し、四肢の骨格筋量が増え、脂肪に対する筋肉の割合も改善していたのです。この脂肪に対する筋肉の割合がHbA1c低下と関連していました。

AER群では体重は減っていたもののHbA1cは下がりませんでした。

有酸素運動が意味がないわけではありません。しかし、やせ型の2型糖尿病という集団に限定したとき、筋力トレーニングの方が血糖コントロールにも体組成の改善にも効果が高かったのです。

血糖は筋肉に取り込まれることで下がります。筋肉量が少ないと、血糖を処理できる「器」が小さい状態です。有酸素運動はその器の使い方を改善しますが、筋力トレーニングは器そのものを大きくする。やせ型の糖尿病患者、とりわけサルコペニアがある場合には、器の使い方だけを磨いても限界があるのかもしれません。

肥満がある2型糖尿病患者さんでは有酸素運動+筋トレが最も効果的です。脂肪の減少によりインスリン抵抗性が改善し血糖が下がります。しかし、肥満がない患者さんの多くは相対的に筋肉量が少なく、脂肪を増やすよりも筋肉量を増やす/維持することが大切だと考えられます。

したがって、2型糖尿病患者さんの運動療法は患者さんの体格や病態に合わせて個別化が必要なのです。

この研究における筋力トレーニングは、専門家の監督下で行われた運動プログラムです。実際の外来診療でやせ型の患者さんに「じゃあ筋トレをしてください」と言うだけでは同等の効果は得られないでしょう。どんな筋トレを、どの強度で、どんな頻度で行うかは私たち専門家が指導する必要があります。また、この研究のフォローアップ率は45%と低く、結果の解釈には注意が必要かもしれません。

それでも、このデータは外来の場で患者さんとの会話を変える力を持っています。

やせ型の糖尿病は日本人にも多いです。運動療法の画一的な処方から、体組成に基づく「個別化された処方」へ。

私も日々の診療で心がけたいところです。

(論文はコチラから読めます)

Chen et al. (2025). “A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update”

サルコペニア(筋量減少症)の話をするとき、多くの人は「高齢者の病気」と思うでしょう。

ところが、アジアサルコペニアワーキンググループが2025年に発表した最新のコンセンサスでは、この常識を覆す大胆な提言がなされています。Nature Aging誌に掲載されたChen et al.の論文は、従来の「サルコペニア診断・治療」から「筋肉の健康維持」へのパラダイムシフトを提唱しているのです。

最も注目すべき変更点は、診断対象年齢の拡大です。

これまでサルコペニアは主に65歳以上の高齢者を対象としていましたが、新しいコンセンサスでは50-64歳も診断対象に含めました。なぜこの年代なのか?

答えは筋肉の生理学にあります。筋量は20代後半~30代前半をピークに年1-2%ずつ減少し、50歳頃から加速度的に低下します。つまり、65歳で症状が表面化したときには、すでに「手遅れ」に近い状態なのです。

新しいアプローチは「治療」ではなく「予防」に重点を置いています。

診断アルゴリズムも大幅に簡略化されました。

従来の複雑な診断基準では、握力測定、歩行速度測定、筋量測定など複数のステップを経る必要がありました。新しい基準では、より実用的で臨床現場で使いやすい簡易診断法が提示されています。

実際の外来診療を考えてみてください。忙しい診療の合間に、高齢の患者さんに複雑な身体機能測定を行うのは現実的ではありません。簡略化により、より多くの医療機関でスクリーニングが可能になるでしょう。

しかし、この論文で最も革新的なのは「筋肉の健康」という概念です。

従来のサルコペニア研究は、筋量減少や筋力低下を単独の問題として捉えていました。新しいコンセンサスでは、筋肉と脳・骨・免疫系の相互作用を強調しています。

これは医学的に非常に理にかなっています。筋肉は単なる運動器官ではなく、内分泌器官としての側面も持ちます。筋肉から分泌されるマイオカイン(筋由来生理活性物質)は、脳の認知機能、骨の代謝、免疫系の調節に深く関わっているのです。

つまり、筋肉の健康を保つことは、全身の健康維持につながる。

この視点は、私の日常診療とも合致します。筋肉量の多い患者さんは、インスリン感受性が高く、血糖コントロールも良好な傾向があります。筋肉はブドウ糖を消費する最大の臓器です。

新しいコンセンサスのもう一つの特徴は、アジア人特有の体格・体質を考慮していることです。

欧米の基準をそのまま適用すると、アジア人では過小診断や過剰診断のリスクがあります。BMI、筋量、握力など、すべてにおいてアジア人固有の基準値設定が必要です。

例えば、同じ握力値でも、体格の小さなアジア人と大柄な欧米人では、筋力の相対的評価が異なります。このような人種差を無視した診断基準では、適切な診断・治療はできません。

臨床現場での実装を考えると、いくつかの課題も見えてきます。

50-64歳への診断拡大は理論的には正しいですが、この年代の多くは現役世代です。仕事が忙しく、健康への関心も高くない人が多いのが現実です。いかにして筋肉健康の重要性を啓発し、早期介入につなげるかが鍵となるでしょう。

また、簡略化された診断基準の精度はどの程度なのか?

シンプルになることで見落とされるリスクはないのか?これらの疑問に答えるには、さらなる臨床研究が必要です。

それでも、このパラダイムシフトは歓迎すべき変化です。

病気を治すよりも、病気にならないことの方がはるかに重要だからです。特に加齢に関連する疾患では、予防的アプローチこそが最も効果的な戦略と言えます。

私自身も40代後半となり、筋肉の健康について考える機会が増えました。空手の稽古を続けているのも、単に趣味ではなく、筋肉健康維持の実践でもあります。

週2回のトレーニングで全身の筋力・筋持久力を維持できているかどうか。

今回のコンセンサスアップデートは、医療従事者だけでなく、50歳以上のすべての人に関わる重要な指針です。筋肉の健康を意識することで、健康寿命の延伸と生活の質向上が期待できます。

早期からの介入こそが、将来の要介護状態を防ぐ最良の戦略なのです。

(論文はこちらから読めます)