腸の「どこが病気か」で、住む菌も変わる。 — Huang Jieqing et al. (2026). “Specific alterations in the gut microbiome and metabolome across disease locations of Crohn’s disease: a systematic review.”

Diagram of gut microbiome changes and intestinal inflammation in Crohn's disease

同じ病気なのに、なぜ治療薬の効き方がこれほど違うのか。

クローン病(Crohn’s disease)を専門にされている消化器内科の先生方が、長年頭を悩ませてきた問いのひとつが、これです。糖尿病の領域でも「患者さんによって治療薬に対する反応がまるで違う」という場面はよく経験しますが、クローン病の場合はその「ばらつき」がとりわけ大きいと聞きます。

今月BMC Gastroenterologyに掲載された、Huang Jieqingらによるシステマティックレビューを紹介します。

テーマはシンプルかつ鋭い。クローン病の「病変部位(どこが炎症を起こしているか)」によって、腸内細菌叢(腸に住む微生物の群れ)と代謝産物(細菌や腸が作り出す化学物質)のパターンが異なるのではないか、というものです。

クローン病は口から肛門まで消化管のどこにでも炎症が起きる病気ですが、臨床的には大きく「小腸型(特に回腸)」「大腸型」「小腸・大腸の両方に及ぶ型」などに分類されます。この分類は治療方針を決めるうえで重要なファクターになっています。

これまでの研究では、腸内細菌のバランスが乱れること(=ディスバイオシス)がクローン病と関係することは知られていました。しかし「部位によって何がどう違うのか」を横断的にまとめた研究はありませんでした。

著者らは、腸内細菌と代謝産物の変化をクローン病患者で観察した研究(48報・クローン病患者さん3,577例)を対象に、部位ごとの特徴的なシグネチャー(微生物・代謝物のパターン)を整理しています。

  • 小腸型クローン病の菌叢

Escherichia coli/AIEC・Fusobacteriumが増加し、Faecalibacterium prausnitziiが著明に減少する。胆汁酸代謝では「回腸での再吸収障害」が主体で、過剰な胆汁酸が大腸に流入し菌叢をさらに攪乱する構造になっている。

  • 大腸型クローン病の菌叢

Lachnospiraceae・Ruminococcaceae という腸管保護的な菌群が失われ、日和見病原菌が占有する。

  • 小大腸型クローン病の菌叢

小腸型 と大腸型の中間的なプロファイルを示す。

  • 全病型に共通する所見

F. prausnitziiの減少が唯一の共通知見だった。短鎖脂肪酸を産生し腸管バリアを保護するこの菌は、部位を問わずクローン病で減少する。

  • 臨床への示唆

腸内細菌叢を病型別に評価することが、プロバイオティクスや便移植(FMT)の精度を上げる鍵になる可能性がある。炎症部位によってターゲットにする菌を変える発想が今後は求められるかもしれない。

そもそもなぜ腸の「部位」によって菌の種類が変わりうるのでしょうか?

小腸と大腸では、酸素の濃度も、pH(酸性・アルカリ性の度合い)も、消化液の種類も、栄養素の流れ方も違います。住んでいる菌の「生態系」がまるで違います。

小腸の回腸(腸の後半部分)では胆汁酸(脂肪の消化を助ける消化液)の吸収が行われ、大腸では短鎖脂肪酸(腸の粘膜を守る化学物質)が盛んに産生されます。炎症がどこに起きるかによって、その生態系が崩れる形も当然異なります。

このレビューが示すのは、部位特異的な微生物・代謝物の変化が存在するという方向性です。たとえば回腸(小腸末端)病変では胆汁酸代謝に関わる菌や代謝産物の変化が目立ち、大腸病変では短鎖脂肪酸産生菌の減少や炎症性代謝産物との関連が示唆されています。

現在のクローン病治療は、生物学的製剤(体の免疫を制御する注射薬)を中心に発展してきましたが、「どの薬がどの患者に効くか」の予測はまだ不完全です。病変部位ごとの腸内環境の違いが、治療反応性の差を生んでいる可能性があるとすれば、将来的には「回腸型のあなたにはこの菌を増やす介入を」「大腸型のあなたにはこの代謝経路を標的に」といった個別化アプローチが見えてくるかもしれません。

この研究はクローン病をテーマにしたものですが、「病気の診断名だけで均一な治療を行う時代は終わりつつある」という示唆を感じます。

糖尿病でも同じことが言えるでしょう。2型糖尿病という病名で括られてはいますが、病態・腸内細菌叢・マイオカインなどの生理活性物質などさまざまなファクターに違いがあり、病気のサブタイプは無数にあります。

診断を個別化し解像度を上げることによって、「なぜこの患者さんにはAが効きBが効かなかったのか」という疑問に答えることができます。

腸内細菌の研究は、かつては「全身の健康に良い」という漠然とした話に終始しがちでした。しかし今は、部位・疾患フェーズ・代謝経路という多層的な文脈の中で語られるようになってきました。

腸内細菌叢についてはまだ分からないことが多いですが、個人の遺伝・生活(生育)環境・免疫などの総体を表していると考えられます。ホリスティックな腸の研究がさらに進むことを期待しています。

(論文コチラから読めます)

腸内細菌が糖尿病の鍵を握っている。 — Sonnenschein et al. (2024). “Strain-specific gut microbial signatures in type 2 diabetes identified in a cross-cohort analysis of 8,117 metagenomes”

腸の中に住む数兆個の細菌たちが、糖尿病の発症や進行に深く関わっているかもしれません。

Nature Medicineに掲載されたSonnenscheinらの研究は、これまでにない規模で腸内細菌と2型糖尿病の関係を調べた論文です。世界10のコホートから集めた8,117人分のショットガンメタゲノム解析を行い、糖尿病患者の腸内で何が起きているのかを詳細に分析しました。

ショットガンメタゲノム解析というのは、腸内細菌のDNAを細かく断片化し、それらを網羅的に解析する手法です。従来の16S rRNA解析よりもはるかに詳細な情報が得られ、細菌の種だけでなく株レベル(strain-specific)での違いまで見ることができます。

研究の結果、19種の系統学的に多様な菌種が2型糖尿病と関連していることが明らかになりました。系統学的に多様というのは、細菌の進化系統樹上で離れた位置にある様々な種類の細菌が関わっているということです。

特に注目すべきは、Clostridium bolteaeの増加Butyrivibrio crossotusの減少が糖尿病患者で共通して見られたことです。

Clostridium bolteaeは炎症を促進する可能性がある細菌で、これが増えることで腸内環境が悪化し、インスリン抵抗性を引き起こす可能性があります。一方、Butyrivibrio crossotusは酪酸(らくさん)という短鎖脂肪酸を産生する有益な細菌です。

酪酸は腸管上皮細胞のエネルギー源となるだけでなく、抗炎症作用や血糖値を下げる作用も持っています。この有益な細菌が減少することで、糖代謝に悪影響が出ている可能性があります。

8,117人という膨大なサンプル数で解析したからこそ、これらの細菌と糖尿病の関連性が統計学的に確実に証明されたのです。これまでの小規模な研究では見えなかった、より普遍的なパターンが浮かび上がってきました。

私の外来でも、糖尿病患者さんから「便秘がひどい」「お腹の調子が悪い」という訴えをよく聞きます。これまでは血糖コントロールに集中してきましたが、腸内環境の改善も同時に考える必要があるのかもしれません。

ただし、これらの細菌の変化が糖尿病の原因なのか結果なのか、まだはっきりしていません。高血糖や糖尿病の薬物治療が腸内細菌に影響を与えている可能性もあります。

また、食事の内容や生活習慣、遺伝的背景なども腸内細菌叢に大きく影響します。10のコホートを統合解析したとはいえ、それぞれの地域や文化的背景の違いが結果にどの程度影響しているのかも気になるところです。

それでも、この研究が示した知見は臨床的にも重要です。将来的には腸内細菌の検査が糖尿病の早期診断や治療方針の決定に役立つ可能性があります。

糖尿病患者さんには食物繊維を豊富に含む食事や発酵食品の摂取を勧めていますが、個別の食事療法で有益な細菌を増やし有害な細菌を抑制できるかもしれません。

プロバイオティクスやプレバイオティクスの活用も、従来の血糖管理に加えた新しいアプローチとして期待されます。ただし、どの菌株をどのような方法で補充すれば効果的なのかは、さらなる研究が必要です。

腸内細菌と糖尿病の関係は、まだ氷山の一角しか見えていません。しかし、この研究は確実にその全貌を明らかにする一歩を踏み出したと言えるでしょう。

(論文はコチラから読めます)