腸の中に住む数兆個の細菌たちが、糖尿病の発症や進行に深く関わっているかもしれません。
Nature Medicineに掲載されたSonnenscheinらの研究は、これまでにない規模で腸内細菌と2型糖尿病の関係を調べた論文です。世界10のコホートから集めた8,117人分のショットガンメタゲノム解析を行い、糖尿病患者の腸内で何が起きているのかを詳細に分析しました。
ショットガンメタゲノム解析というのは、腸内細菌のDNAを細かく断片化し、それらを網羅的に解析する手法です。従来の16S rRNA解析よりもはるかに詳細な情報が得られ、細菌の種だけでなく株レベル(strain-specific)での違いまで見ることができます。
研究の結果、19種の系統学的に多様な菌種が2型糖尿病と関連していることが明らかになりました。系統学的に多様というのは、細菌の進化系統樹上で離れた位置にある様々な種類の細菌が関わっているということです。
特に注目すべきは、Clostridium bolteaeの増加とButyrivibrio crossotusの減少が糖尿病患者で共通して見られたことです。
Clostridium bolteaeは炎症を促進する可能性がある細菌で、これが増えることで腸内環境が悪化し、インスリン抵抗性を引き起こす可能性があります。一方、Butyrivibrio crossotusは酪酸(らくさん)という短鎖脂肪酸を産生する有益な細菌です。
酪酸は腸管上皮細胞のエネルギー源となるだけでなく、抗炎症作用や血糖値を下げる作用も持っています。この有益な細菌が減少することで、糖代謝に悪影響が出ている可能性があります。
8,117人という膨大なサンプル数で解析したからこそ、これらの細菌と糖尿病の関連性が統計学的に確実に証明されたのです。これまでの小規模な研究では見えなかった、より普遍的なパターンが浮かび上がってきました。
私の外来でも、糖尿病患者さんから「便秘がひどい」「お腹の調子が悪い」という訴えをよく聞きます。これまでは血糖コントロールに集中してきましたが、腸内環境の改善も同時に考える必要があるのかもしれません。
ただし、これらの細菌の変化が糖尿病の原因なのか結果なのか、まだはっきりしていません。高血糖や糖尿病の薬物治療が腸内細菌に影響を与えている可能性もあります。
また、食事の内容や生活習慣、遺伝的背景なども腸内細菌叢に大きく影響します。10のコホートを統合解析したとはいえ、それぞれの地域や文化的背景の違いが結果にどの程度影響しているのかも気になるところです。
それでも、この研究が示した知見は臨床的にも重要です。将来的には腸内細菌の検査が糖尿病の早期診断や治療方針の決定に役立つ可能性があります。
糖尿病患者さんには食物繊維を豊富に含む食事や発酵食品の摂取を勧めていますが、個別の食事療法で有益な細菌を増やし有害な細菌を抑制できるかもしれません。
プロバイオティクスやプレバイオティクスの活用も、従来の血糖管理に加えた新しいアプローチとして期待されます。ただし、どの菌株をどのような方法で補充すれば効果的なのかは、さらなる研究が必要です。
腸内細菌と糖尿病の関係は、まだ氷山の一角しか見えていません。しかし、この研究は確実にその全貌を明らかにする一歩を踏み出したと言えるでしょう。
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