BMJ Christmas 2022の論文から

BMJクリスマス特集はちょっと馬鹿げた研究テーマを真剣に考えてみたシリーズですが、昨年もなかなか面白い論文がありました。

Gaesser先生らによるQuantifying the benefits of inefficient walking: Monty Python inspired laboratory based experimental studyと題された論文では、英国のコメディグループ「モンティ・パイソン」によるコント「Ministry of silly walks」に出てくる”バカ歩き”のエネルギー消費量を定量化しました。

13名の健康な被験者に、普通の歩き方、バカ歩きその①(ピューティー氏の歩き方)、バカ歩きその②(ティーバッグ氏の歩き方)3通りの歩き方を実演してもらい、酸素摂取量とエネルギー消費量を計算しました。

その結果、ティーバッグ氏の歩き方は、通常の歩き方と比較してエネルギー消費量が約2.5倍となりました。

Ministry of silly walks」の動画を見ていただければ分かりますが、よくこんな変な歩き方を被験者にやらせたなあ…と。さすがBMJクリスマス特集号。

無駄のない効率的な生活が良しとされますが、痩せるためには無駄のある体の動きが重要です。

休憩中の素振り(ゴルフ、テニス、野球…etc)や貧乏ゆすりなど、何かを得ようと意図的に行うものではない体の動きーすなわちNEAT (Non-exercise activity thermogenesis)が健康の礎となることが分かっています。

私も、誰も見ていないところで、無駄に突き・蹴りの動作をやったりしますが…体力づくりのためにジムに行こうとか痩せるためにウォーキングをしようとか、意図的にやる運動はそれなりに心のエネルギーを必要とします

一方、ついついやってしまうNEATは、ストレスフリーです。

NEATになるくらいその”運動”を好きになって続けることが必要かもしれませんが、みなさんも何でもいいので自分だけのNEATを見つけてください。

本を書きませんか?

最近、カナダの大学教授とイランの新進気鋭の研究者から、Effects of functional foods on diabetesというテーマで本の一章を執筆してくれないか、との依頼を受けました。

ほぼ同時に同じようなメールを受信して少し驚きましたが、一体なぜ私なんだ?というのが正直な気持ちです。

確かに、Functional foods for type 2 diabetesという論文を数年前に執筆しましたが、私は決して機能性食品の専門家ではありません。

「私でいいのか?」という旨の返信を送ったところ、「お前で良いのだ。」という回答であったため、この仕事、謹んで受けることにしました。

原則、貴重なお仕事のお誘いは断らない、自分がお役に立つのであれば執筆活動は本望、本懐であります。

ちなみに、日本の出版社から”自費”出版のお誘いを受けることもありますが、全力でお断りしております。

いいカモになるだけですから。

ある程度業績(英語論文)ができると有象無象の学術誌から論文投稿の依頼が来ます。

「ハゲタカ雑誌」は論外ですが、私は以下の条件を満たせば原則お断りしない方針です。

  1. 投稿・出版に際してお金(article processing charge)を取らない。
  2. 雑誌がPubMedやScopus,Embaseなどの信頼できるデータベースに収載されている。オープンアクセス誌の場合、少なくともDOAJ (Directory of Open Access Journals) に載っている。
  3. Editorial managerではなく、Editor自身が招待メールを送っている。

今回のお誘いは両方ともEditorである研究者が直接コンタクトしてきました。出版社もElsevierとCRC pressということで信頼できます。

あとは書いて、書いて、書きまくるのみ。

残念ながら、いわゆる一流学術誌からお誘いを受けたことはありません…力量不足ですね。

いつの日か、我が国の出版社からも、「本を書いてくれませんか?」と依頼を受けたいものです….。

商業出版の場合、出版社は”売れる”本にしなければならないので、いくらかはエンターテインメントの要素が必要でしょう。

著者の社会的地位・知名度が超重要なのは言うまでもありません。

自分はまだまだその領域に達していませんが、ひとつの目標として、今後も研鑽を積みたいと思います。

研究の再現性

少し古い話ですが、Natureの調査によると50%以上の研究者が研究結果の再現性に危機感を抱いているということが分かりました。

インパクトの大きい研究結果は注目されやすいですが、目新しい研究の再現性は決して高くなく(概ね50%未満)、必ずしも普遍的な「真実」とは言えないようです。

人間が行う研究には様々なバイアスが入ってしまいます。

世に出て注目される研究は、ほとんどすべてが”ポジティブな”研究結果です。研究計画で定めたアウトカムに有意な結果が出なかった場合、多くの研究は論文として出版されることはありません(出版バイアス)。

本当は”ネガティブな”結果が真であるにもかかわらず、バイアスのかかった”ポジティブな”結果ばかりがエビデンスとして発表されてしまう、こともあるわけです。

上の図は有名なエビデンスレベルピラミッドですが(出典:日本先進医療臨床研究会のページhttps://jscsf.org/therapeutic-material)、一番エビデンスレベルが高いとされるシステマティックレビュー・メタアナリシスであっても、バイアスとは無縁ではありません。

最近ではこのエビデンスレベルピラミッドは古い概念となりつつありますが、バイアスの少ない研究が信頼性が高いということは間違いありません。

どうしたらバイアスがなく再現性の高い研究を行えるのでしょうか。

研究の質を高めるガイドラインはいくつかあり、論文を発表する際にそれに準拠していることが求められる学術誌もありますが、あくまでも自己申告であり客観的評価が難しい。

人間が行った実験・研究を人間が評価すること自体に限界があるのかもしれません。

Frontiersという出版社(一時期Beall’s Listに載りハゲタカ雑誌と揶揄されましたが、少なくとも現在はそれなりにきちんとした学術誌になっています)は投稿された論文の初期評価をAIが行っているようです。

剽窃・盗用がないか、英語は正しく使われているか、重複出版ではないか、倫理的に問題のある研究ではないか、など自動的に判定されますが、今後はこのようなAIによる研究の質の評価を積極的に行う必要があるでしょう。

一定の基準を満たさない研究は査読に回らないようにすれば、論文の質もある程度向上すると思います。

研究の再現性についてもAIが判定してくれたら良いのですが、そのためには人間が再現実験を複数回行い、そのデータをAIが学ぶ必要があります。

研究の再現性の問題はまだまだ研究者たちを悩ませることになりそうです。

BMJ

British Medical Journal、通称BMJは世界五大医学雑誌のひとつで、インパクトファクター93.333(2022年)もあるお化け雑誌です。

毎年12月にクリスマス特集と題して、普通は研究対象にならないような面白いテーマをまじめに分析してみた研究が発表されます。

去年のクリスマス特集に掲載されたのは、

ヘビメタバンドが多い地域ではアルコール関連の死亡率がちょっと低い。

Logicさんのヒップホップソング”1-800-273-8255″により、全米自殺防止ネットワークへの相談電話が増え、自殺者数が減った。

AIはクリスマス特集号の面白いタイトルを作れるか?→作れる。美味しい無料コーヒーが救急科待ち時間に与える影響:観察試験

などでした。

今年のクリスマス特集も楽しみです。

メトホルミン

1950年代にマメ科の植物ガレガソウから作られたメトホルミンは糖尿病の第一選択薬として世界中で使われている偉大な薬ですが、最近では抗がん作用やアンチエイジング作用の可能性も注目されています。

Life Span 老いなき世界の著者、デビッド・シンクレア博士も飲んでいるらしいです。

最近、New England Journal of Medicine誌に、メトホルミン(とイベルメクチンとフルボキサミン)がコロナに効くどうか調べた無作為化比較試験の結果が掲載されました。

プライマリーアウトカムは低酸素血症、救急外来受診、入院あるいは死亡の複合エンドポイントで評価していますが、残念ながら、メトホルミンはコロナに効果はなかったようです(オッズ比 0.84、95%信頼区間 0.66-1.09、p = 0.19)。

効果はなかったけど、効果があるかもしれないと考えてこんな臨床試験を組んだことが驚きです。

改めて、メトホルミンという薬のすごさを感じました。

BCGワクチンの効果

Bacillus Calmette–Guerin (BCG) ワクチンは、基本的には結核予防のために使われ、全世界で数十億人の人がすでに接種済みです。日本において、平成25年度以降は生後1歳に至るまでの間に接種することとなっています(生後5か月~8カ月が多い)。

一方、BCGワクチンは、膀胱癌術後に癌細胞に対する免疫を高めるために使われたり、1型糖尿病の治療に使える可能性があったり、いろいろな可能性を秘めたワクチンのようです。

8/15にマサチューセッツ総合病院のDenise L. Fausetman博士らが、衝撃的な論文を発表しました。

タイトルは、”Multiple BCG vaccinations for prevention of COVID-19 and other infectious diseases in Type 1 diabetes”。1型糖尿病患者さんを対象にした無作為化比較試験で、COVID-19(コロナ)に対するBCGワクチン (Tokyo-172株) の有効性を検証しました。

15カ月の試験期間中、BCGワクチンを複数回接種していた人96名のうちわずか1名がコロナを発症したのに対して、プラセボを接種した48名のうちコロナを発症したのは6名でした。この結果から、BCGワクチンのコロナに対する発症予防効果は92%であったと報告されています。

東北大の大隅典子先生もBCGのオフターゲット効果として解説されています。

人間の免疫の働きについてはまだまだ分からないことばかりです。

100年以上前に開発されたBCGワクチンのコンセプトが、コロナに有効であったという結果には驚きと希望を感じます。