呼吸と身体操作②

呼吸と身体操作①

審査会

上半身と下半身の一体化

無意識に動く

道場における作法

武道は礼に始まり礼に終わる、と言われますが、日々の稽古において、稽古開始時と終了時に必ず座礼をします。

必ず、です。今まで5000回以上稽古してきましたが、座礼は決して欠かしません。

また、組手では必ずお互いに礼をしてから始めます。

必ず、です。礼をせず、相手に敬意を持たずに行う組手はケンカと同レベルです。礼をすることによってお互いに高め合う準備をします。

また、道場に出入りする際も礼をします。

他にもいろいろと「作法」がありますが、道場によって異なります。

武術・武道を指導する立場になり、私が道場生に求めた作法は稽古後の掃除です。

公共施設を使わせていただく中で稽古後の掃除は義務ではありませんでしたが、私と道場生みんなで毎回掃除をするようにしてきました。日本人の感覚からすれば当たり前のことでしょう。

鹿児島に戻り常設道場で稽古するようになりましたが、そこで驚いたのが道場生のお母様の作法でした。

稽古終了後に道場床のモップ掛けを子どもたちにさせているのですが(子どもたちにとってはちょっとした遊びになっています)、ある道場生のお母様(親子で道場生)が毎回トイレ掃除をしてくださるのです。

私から頼んではいませんし、トイレ掃除までしなくてもよいのですが、稽古に参加されたその日から自発的にしてくださっています。

先日はその方の旦那さんもトイレ掃除をしてくださいました。そういうご家庭なのですね。

私は鹿児島生まれ鹿児島育ちですが、しばらく東京に住んでいました。

以前、鹿児島の子どもたちが横断歩道を渡った後、待ってくれた車に一礼するのを見て大変驚きました。東京では見ない光景です。

鹿児島は少し特殊なのかもしれませんが、徐々に薄れてきてはいるものの、旧薩摩藩の教育理念が子どもたちの教育に残っているのかもしれません。

道場で見る道場生によるトイレ掃除が鹿児島では当たり前で東京では当たり前ではないのかは分かりません。

(土地柄の違いというより、武術・武道を学ぶために道場に通う人は掃除や礼を重んじる傾向があるのかもしれない)

この作法が道場で受け継がれていくことを期待しています(自分でトイレ掃除したくないわけではありません笑)。

稽古法の考察②

武術・武道を学ぶ目的は、相手の攻撃から身を護るあるいは相手を倒す技術を身につけることなので、対人稽古が極めて重要です。

今のところ、人と人との技の応酬を再現できるバーチャル技術は存在しないため、フィジカルで鍛えなくてはなりません。

オンラインミーティングやYouTubeなどを利用したバーチャル稽古は可能ですが、対人技術を磨くにはその場の空気、相手と対峙したときの緊張感、相手の表情・息づかい、技を受けた時の痛み、技を出した際の力の作用・反作用など、膨大な情報をインプットし、解釈し、再び人に対してアウトプットすることが必要になります。

五感をフルに使うこの対人稽古はどのようにすれば効率良く効果的に行えるのでしょうか?

私の道場では、対人稽古(組手、心体育道では”捌き”と言います)を4つの段階に分けて行います。

  1. 基本組手:攻撃技と受け技・返し技をあらかじめ決め、号令に合わせて行う。
  2. 捌き(応用):攻撃技のみ指定し、受け技・返し技は自由に行う。攻撃する側は相手の捌き技に①抵抗せずやられる②少し抵抗するなど、相手の力に応じて技を受け、相手を引き立てる。
  3. 捌き(実践):攻撃技・受け技・返し技すべて自由に行う。
  4. 捌き(実戦):攻撃技・受け技・返し技すべて自由に行う。構えもとらず、自然体で行う。一対一だけではなく、一対複数も想定して行う。

競技試合を行う空手や柔道と異なるのは、必ず攻撃側と捌く側を決めて行う点です。

両者が攻撃し合うと力に頼りがちとなり、相手に勝つことが目的になってしまいます。心体育道では負けない技術を学ぶことが稽古の目的です。相手を制する(倒す)ことができなくても、例えば攻撃を上手に受けかわすことができれば、それで良いのです。

武術・武道における対人稽古は特殊な環境で行われるものですが(相手が何かしらの敵意をもって襲ってくるという状況)、この稽古法はビジネスにおいてコミュニケーションスキルを磨く過程とアナロジカルかもしれません。

例えば、

  1. 基本スキル:状況設定や話す内容をあらかじめ決めて行う。模擬面接、模擬会見など。
  2. 応用スキル:状況設定のみ指定し、会話は自由に行う。状況によるが、話をリードする側は相手の話に①賛成する②少し反対意見を述べるなど、相手のコミュニケーション力に応じて会話をし、相手を引き立てる。
  3. 実践スキル:状況設定や話す内容などすべて自由に行う。
  4. 実戦スキル:状況設定や話す内容などすべて自由に行う。自然体で行う。一対一だけではなく、一対複数も行う。

というような4つの段階が考えられるのではないでしょうか?

武術・武道における対人稽古や組手で学ぶスキルは、ビジネスにおける対人スキルに通じるものがありそうです。

稽古法の考察①

学習効果を高め、知識やスキルの柔軟な適応を可能にするのはdesirable difficultiesであると言われています(David Epstine著RANGEを参照)。

短期的に成果が得られる単純で表面的な学習よりも、初めから実際の応用を想定するような”困難な”学習の方が長期的には知識やスキルが定着し”望ましい”成果が得られる。

というものですが、これは武術の稽古法においても当てはまると考えられます。

例えば、一般的な空手の稽古において、初心者は足を動かさずにその場で突きや蹴りを何回も繰り返す練習を行います。基本となる単純な技を繰り返し、身体の使い方を覚えるわけです。

一方、私が稽古・指導する心体育道では、そのような練習は一切行いません。

初心者は4つの立ち方(後屈立ち・前屈立ち・三戦立ち・騎馬立ち)と12のステップ(足運び)を練習します。

これが初心者にとってなかなか難しいようで、覚えるのに苦労される道場生も多いですが、きちんと出来るようになれば型や組手に幅広く応用できるようになります。また、護身術において、相手、特に体の大きな相手とぶつかり合わないことがとても大切なポイントになるため、初めにステップを練習するということは理にかなっています。

稽古におけるdesirable difficultiesのひとつと考えられますが、立ち方とステップをマスターするのにはそれなりの時間がかかります。

単純な突き・蹴りを練習する方が楽しい、かもしれない(特に子供は)ので、心体育道を学ぶ者にとって最初で最大の”壁”となりますが、ここを乗り越えると稽古は断然楽しくなり技もどんどん上達します。

また、様々な型・技を習得した後に立ち方とステップが最も重要であることに気づき、最初の練習に立ち返ることになります。心体育道では最初に学ぶことが”奥義”なのです。

立ち方とステップがその後に習得する技でどのように使われどんな効果があるかを、実際に技を見せながら具体的に伝えるようにし、道場生の学習効果を高められるように指導しています。

手と道具(武器)の連動

心体育道では体術以外に「杖」と「SMARP(という鞭)」を用いた武器術があります。

(私が入門したころは「木刀」術もありましたが、その後稽古で行われなくなりました。)

廣原先生は「SMARP(鞭)の技は杖術が基になっている。」と仰られており、各武器術の間にも深い関係がありそうですが、ここでは手と道具(武器)の関係について考えてみたいと思います。

攻撃技である突きや打ちは腕を伸ばす動きになります。

おおよそ、上肢全体を伸ばすのが突きで、前腕のみ肘関節を伸ばすのが裏拳などの打ちになります。

この動きを杖(棒きれやほうきでもいい)に応用してみると何の違和感もなく見事にはまります。

道具(武器)の重みや厚みがあるので上手に使えるまで多少の練習は必要ですが、上肢全体を伸ばすと”槍のような突き”になり、肘関節を曲げて伸ばすと”あらゆる角度から繰り出せる打ち”になります。

杖術の場合、剣のように大きく振る動きもありますので、手の技と全く一緒ではありませんが、手を上手に使うことと道具(武器)を上手に使うことは一緒と感じます。

考えてみれば、これは人間の筋肉・骨格・関節の構造上、当然のことですが、何か道具を持って行う動作は初めは難しく感じられます。鉛筆で字を書く、ナイフやフォーク・箸を使って食べる、テニスのラケット、ゴルフのクラブ、野球のバット…etc繰り返すことによって動作が効率的で効果的になっていきます。

最初から効率的かつ効果的に身体操作ができる人のことを「天才」と呼ぶのでしょう。

武術において面白いのは、武器を使うことによって手のみの動きがより効率的かつ効果的になるところです。

武器の重みや厚みを制御するために神経機能や筋力が発達し、それが手のみの動きに反映されるのかもしれません。

また、武器を使うことによって新たな”気づき”も得られます。

例えば、相手との間合いの取り方について。

武器を持てば当然手のリーチが長くなるので、攻撃範囲は広くなります。間合いによって有効な技と有効でない技について考え、理解が深まります。

それから、受けと体捌きについて。

手の受けと武器を用いた受けにも共通点が多いですが、硬い杖や鋭い刃物を手で受けるのは極めて危険かつ困難です。

自分が怪我をしないように、いかに上手く受け流すことが必要か思い知らされます。

力と力が真っ向からぶつかると、物理的な力が強い方が勝つのは必定です。

力のベクトルを考えて受け方と受ける方向を(できるなら)瞬時に判断することが大切です。

武器が身体に直撃すれば大怪我は免れ得ません。下手をしたら命を落とします。

相手の攻撃からいかに逃げるか、体捌きが最も重要であることに気づきます。

普段の稽古の意識が変わり、さらに武術に熟達します。

心体育道では黒帯取得後に武器術を学びます。武器術を学ぶことによっていろいろと理解が深まり姿勢が変わり、武術に対する視野が広がるのではないでしょうか。

掴む

人間には五本の指があり、物を掴む・握る動作は生きていくうえで欠かせないものです。

直立二足歩行を獲得した過程で精緻な手の動作が進化したとされていますが、稽古を積む中で、この掴む動作の奥深さを感じています。

相手を逃がさないようにしっかり掴む場合、親指と残り四本の指を対向させぎゅっと力を入れると思います。この時、人差し指に一番力が入り最も重要な役割を持っているような気がしますが、実はそうではありません。

重要なの小指あるいは薬指(個人的には薬指が一番重要と考えています)です。

一般的に、小指は一番力の入らない弱い指だと考えられがちですが、インドの研究によると、親指を動かして物を掴むとき、他の指と比較して小指が親指と連動することが確認され、掴む動作において親指と小指の間には解剖学的に重要な関係が存在することが分かりました。

確かに、人差し指に力を入れるよりも小指あるいは薬指(個人的には薬指です!)を使って物を掴んだ方が、楽に持てる気がします。

武術・武道の種類にもよりますが、心体育道では相手をぎゅっと掴むことはしません。

親指もあまり意識せず、薬指で”引っかける”ような感じで相手の体の一部を「掴み」ます。

小指と薬指は他の指と比べて貧弱な指に見えますが、意外と力強い指です。

もう少し詳しく説明すると、薬指の指先ではなく付け根より少し先の部分を掴みたい場所にぴったりと当て、脇を締めて引くことにより相手をコントロールします。

実際に誰かの腕を掴んで違いを感じてみてください。

掴む動作は指や腕に力が入りすぎると不安定になります。

これはまた別の機会にお話ししようと思いますが、手で掴みますが相手を引いて動かす場合、足で引きます。

掴む動作は奥深く、五本の指の役割についてまだ分かっていないことが多そうです。武術・武道の稽古は自分の身体を”知る”ことです。すべてが分かることはないでしょう。これで終わりという到達点もありません。ただ、もっと知りたくて稽古を続けています。