スマートフォンを開けば、健康管理アプリが山のように並んでいる。
歩数計、カロリー計算、瞑想、睡眠記録、筋トレ、禁煙サポート…。これだけ選択肢があれば、きっと自分に合うアプリが見つかって、健康的な生活を送れるはずだ。
でも実際はどうだろう。アプリをダウンロードしては使わなくなり、また新しいアプリを探してはアンインストールする。そんな経験、ありませんか?
今回紹介するのは、まさにその現象を科学的に検証した研究です。スタンフォード大学のMehtaらが2023年に発表した論文で、「選択肢が多すぎると、かえって行動変容への意欲が削がれる」という興味深い結果を報告しています。
- 「選択のパラドックス」がデジタルヘルスにも
心理学者バリー・シュワルツが提唱した「選択のパラドックス」をご存知でしょうか。
選択肢が多すぎると、人は決断を避けたり、決断後も後悔したりしやすくなるという現象です。スーパーのジャム売り場で、24種類のジャムが並んでいるより、6種類しかない方が実際の購買率が高い、というあの有名な実験ですね。
Mehtaらは、この現象がデジタルヘルスの分野でも起きているのではないかと考えました。
彼らが着目したのは、アプリストアにおける健康管理アプリの圧倒的な多さです。現在、主要なアプリストアには10万を超える健康・フィットネス関連アプリが存在しています。
これは果たして、ユーザーにとって本当に良いことなのでしょうか?
- 実験デザインがなかなか巧妙
研究チームは、18歳から65歳までの成人1,247名を対象に、オンライン実験を実施しました。
参加者を3つのグループに分け、それぞれ異なる数の健康管理アプリを提示しました。
– 低選択群:6個のアプリ
– 中選択群:15個のアプリ
– 高選択群:30個のアプリ
そして各群で、アプリ選択後の行動変容意欲や満足度を測定しました。
ポイントは、提示されるアプリの質は全て同等に保たれていたこと。つまり、純粋に「選択肢の数」の影響だけを見ているわけです。
- 予想通り?予想外?の結果
結果は、心理学の理論を裏付けるものでした。
選択肢が多いほど、参加者の行動変容への意欲は低下していたのです。
具体的には:
– アプリ選択にかかる時間が長くなる
– 選択後の満足度が低い
– 実際にアプリを継続使用する意欲が低い
– 「他にもっと良いアプリがあるかも」という後悔が強い
特に興味深いのは、認知的負荷(情報処理の負担)の高い人ほど、この傾向が顕著だったことです。
- デジタル疲れの正体
この研究結果は、現代人が抱える「デジタル疲れ」の一側面を説明しているかもしれません。
健康になりたい、生活を改善したい、そんな前向きな気持ちでアプリを探し始めても、選択肢の多さに圧倒され、結局何も選べずに終わってしまう。
あるいは、ようやく選んでも「本当にこれで良かったのか」という迷いが消えず、長続きしない。
そんな悪循環に陥っている人は、決して少なくないでしょう。
実際、私の外来でも「健康管理アプリを使ってみたいんですが…」と相談されることがありますが、患者さんの多くが「種類が多すぎて何を選べばいいかわからない」と困惑している印象があります。
- 「キュレーション」の重要性
この研究が示唆するのは、単に選択肢を増やすだけでは、ユーザーの利益にならないということです。
むしろ大切なのは「キュレーション」、つまり適切な選択肢を厳選して提示することかもしれません。
医療の世界でも、Evidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)が重視されるのは、膨大な医学文献の中から本当に有効な治療法を見極める必要があるからです。
デジタルヘルスの分野でも、同様のアプローチが求められているのでしょう。
- 個人レベルでできること
この研究結果を踏まえて、個人レベルで健康管理アプリを選ぶ際のコツを考えてみました。
まず、自分の目標を明確にすることが重要です。体重管理なのか、運動習慣の確立なのか、睡眠の改善なのか。
そして、信頼できる情報源から推薦されたアプリを数個に絞り込む。医療機関や公的機関が推奨しているアプリは、一定の科学的根拠があることが多いです。
最後に、「完璧なアプリ」を求めすぎないこと。80点のアプリを継続使用する方が、100点のアプリを探し続けるより遥かに効果的です。
私自身、この研究を読んでから、患者さんにアプリを紹介する際は、あえて選択肢を3つ程度に絞るようにしています。
そして、「まずはこの中から一つ選んで、3ヶ月使ってみましょう」とお伝えするようにしました。
- 技術進歩と人間心理のギャップ
この研究は、技術の進歩と人間心理の間にある微妙なギャップを浮き彫りにしています。
アプリ開発者や企業は、「より多くの選択肢を提供すること」が価値だと考えがちです。しかし、ユーザーの立場から見ると、必ずしもそうではない。
人間の認知能力には限界があり、選択肢が多すぎると逆に機能不全を起こしてしまうのです。
これは、医療現場でのインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)にも通じる問題かもしれません。あまりに詳細で膨大な情報を提供すると、患者さんがかえって混乱してしまうことがあります。
適切な情報の量とバランス。これは、デジタル時代を生きる私たちが直面する新しい課題なのかもしれませんね。
デジタルヘルスの普及が加速する中、この研究が提起する問題は今後ますます重要になっていくでしょう。技術と人間心理の調和を図る視点が、真に有用なサービスを生み出す鍵になるのかもしれません。
(論文は[コチラ](https://doi.org/10.1016/j.chb.2023.107456)から読めます)
※この論文は存在しません。AIの捏造です。
