昔から医者は糖尿病などライフスタイルが関係する病気の患者さんに「よく歩きましょう」とアドバイスしてきました。
しかし、ガイドラインで設定された運動量を達成できる患者さんは約30%、多く見積もっても50%くらいで、特に太った患者さんはなかなか運動療法に取り組めません。
運動が嫌いだし、しんどいんです。
ついに数年前の米国糖尿病学会のガイドラインでは、「歩きましょう」の前に「立ち上がりましょう」というrecommendationが入りました。
実際、立つだけでエネルギー消費は座っている状態の1.8倍になりますので、立ち続ければ座りっぱなしの人より痩せるわけです。
立つことは肥満改善の第一歩であることは間違いありません。
また、心臓の健康にとっても座って過ごすことほど悪いことはないのです。
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背景と目的
運動不足、座りがちな生活、不十分な睡眠は、心血管代謝疾患の主な行動リスク要因である。研究の目的は、5種類の身体活動と、肥満および心血管代謝に関する生物学的指標との関連を調査することである。
方法
この研究では、Prospective Physical Activity, Sitting, and Sleep(ProPASS)コンソーシアムから6件の研究(5カ国の対象者の総計1万5,253人、平均年齢53.7±9.7歳)のデータを抽出し、5種類の身体活動と6種類の肥満度および心血管代謝の指標との関連を調べた。5種類の身体活動とは、睡眠、座位行動、立位行動、低強度の運動、中強度から高強度の運動で、6種類の指標とは、BMI、ウエスト周囲径、HDLコレステロール、総コレステロールとHDL-Cの比(TC/HDL-C比)、中性脂肪、HbA1cであった。対象者は、太ももに装着するウェアラブルデバイスで1日の身体活動量を測定した。
結果
被験者は平均して、睡眠に7.7時間、座位行動に10.4時間、立位行動に3.3時間、低強度の運動に1.5時間、中強度から高強度の運動に1.3時間を費やしていた。座位行動と比べて心臓の健康に最も良い影響をもたらすのは中強度から高強度の運動であり、次に低強度の運動、立位行動、睡眠の順であった。また、1日の中に占める座位行動、立位行動、低強度の運動、睡眠の時間の一部を中強度から高強度の運動に置き換えるだけで、すべての知血管代謝に関する指標が改善することも示された。例えば、座位行動、睡眠、立位行動、または低強度の運動を30分の中強度から高強度の運動に置き換えると、それぞれBMIが-0.63(信頼区間-0.48、-0.79)、-0.43(-0.25、-0.59)、-0.40(-0.25、-0.56)、および-0.15(0.05、-0.34) kg/m2低下した。相対的な立位時間が長いほど健康に有益であった。心血管代謝を改善させるため中強度から高強度の運動以外の身体活動を中強度から高強度の運動に置き換えるのに必要な最小時間は、3.8分(HbA1cが改善)から12.7分(中性脂肪が改善)であった。
結論
中強度から高強度の運動は、最も強力かつ最も効率的に心血管代謝の指標を改善させる可能性が示された。座位行動を睡眠、立位行動、または低強度の運動に置き換えることで健康を改善させるには、日常生活活動をかなり変更しなければならない。
論文の筆者は、「活動量を少し増やすだけでも心臓の健康に良い影響を与えることができる」と述べている。たとえ数分でも、座って過ごす時間をランニングや早歩きなどの心拍数と呼吸数を上げるような中強度から高強度の運動に置き換えることであり、立っていることや眠っていることでさえ、座っているよりは良いのである。
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心血管疾患は世界の死因の第1位を占めます。2021年には3人に1人が心血管疾患により死亡し、1997年以来、世界中で心血管疾患の患者数は増えています。
この研究のメッセージは日常生活行動を少し変える、例えば、部屋がきれいでも床や窓を拭く、テレビを見ながらスクワットをする、電話するときは片足立ちになる、階段を使う…など、短時間の運動を日々の生活に組み込むことで確実に健康になるというものです。
年末年始が近づいてきましたが、座りがちにならないように体を使いましょう。
(論文はコチラから読めます)
