政治的イデオロギーは単純に「右」と「左」に分けられるものではありませんが、分かりやすいのでよく使われます。
現在、世界は「右」寄りになっているという意見があります。各国で保守派政権が誕生し、自国・自民族を優先する国が増えています。行き過ぎたグローバリズムに対する揺り戻しのように見えます。
欧州の若者を対象に、政治的イデオロギーがここ30年でどのように変化してきたか検証した興味深い研究があったので紹介したいと思います。
32カ国の欧州諸国において、20~29歳の若年層における政治的イデオロギー(左右自己認識)に関する性差が近年拡大しているのかを検証した。1990~2023年のEurobarometer調査約46万人分のデータを用い、性別平等度(Gender Inequality Index)との関係も分析した。
まず、「伝統的な性差」(女性が保守的・右寄り)は、調査対象の国々では現在ほぼ消失しており、代わって「モダンな性差」(女性が左寄り・リベラル、男性が右寄り)が複数の国で観察された。具体的には、18カ国で若年層におけるモダンな性差が認められ、うち11カ国では1990年代以降にその差が拡大していた。
特に顕著な差を認めたのは、北欧諸国(デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー)やオランダ、スロベニア、エストニアなどであり、これらの国々では若年女性が急速に左傾化し、男性はやや右傾化または変わらずという傾向があった。フィンランドでは、2020年時点での女性と男性の左派傾向のスコア差が標準偏差で−0.75と中程度であった。
一方、14カ国(イタリア、ハンガリー、トルコ、アイルランドなど)では、性差はほとんど見られず、長期的にも男女の左右自己認識の傾向は変わらず推移していた。
また、男女の政治的イデオロギーの違いと、社会における男女平等の進み具合との関係も明らかになった。男女平等が進んでいる国ほど、若者の間で男性と女性の政治的イデオロギーの違いが大きくなる傾向があった。これは、平等が進むほど、かえって「まだ残っている不平等」が際立って感じられるようになり、それが女性をより平等を重視する左寄りの考え方に向かわせたり、一部の男性には「行き過ぎた平等」と感じさせて反発を生んだりする―こうした現象は「トクヴィル・パラドクス」と呼ばれる考え方で説明できると考えられる。
このような男女の政治的イデオロギーの違いの広がりは、「新しい世代が登場してきたこと」(世代交代)や「すべての世代に影響する社会の変化」(時代の影響)によって生じている可能性があることが分かってきた。例えば、北欧の国々では2015年ごろから社会全体の変化が影響している一方で、エストニアやスロベニアでは1990年代後半に生まれた若い世代が特にそうした傾向を強く示していた。
本研究は、「欧州全体で一様に若年男性が右傾化し、性差が拡大している」という単純なナラティブに否定的であり、国ごとの文脈やジェンダー平等の達成度が政治的イデオロギーの性差に強く影響していることを示している。
欧州では伝統的な政治的イデオロギーの性差として女性が保守的・右寄り、というところに驚きましたが(日本の女性は伝統的にフラットな印象がある)、「男性が右傾化している」というのは日本も同じかもしれません。
北欧諸国でも左傾化しているのが女性だけ、という点も興味深いです。雑な言い方をすると、現代社会では女性は左傾化しやすく男性は右傾化しやすいのでしょうか?
国ごとの文脈で政治的イデオロギーの変化は異なるのは当然だと思います。各国の経済状況や戦争など、内的要因だけではなく外的要因の分析もして欲しかったですね。政治的イデオロギーに変化が生まれる場合、内的要因よりも外的要因の方が影響が大きいのではないでしょうか。
わが国は来る7/20に参議院選挙が行われますが、結果によっては、今後の国のかたちに影響を与えかねない重要な選挙になると思われます。
