インスリン療法ではインスリンの量を増やせば増やすほど血糖値が下がるので、低血糖を起こさないように食事(糖質)の量とインスリン単位数を合わせるのですが、近い将来そのような面倒くさいことをしなくて済むようになるかもしれません。
この論文は、糖尿病治療における新しいインスリン分子「NNC2215」の開発と特性について報告しています。
以下に、まとめます。
糖尿病治療において、インスリン療法の最大の課題は低血糖のリスクです。ノボノルディスクファーマ社の研究チームは、血糖値に応じて自動的に活性を調整できるグルコース感受性インスリンの開発を行っています。
NNC2215は、インスリン分子にグルコース結合マクロサイクルとグルコシド(グルコース類似体)を結合させた構造になっていて低血糖時には不活性状態となり、高血糖時にのみ活性化します。
血糖値が低いと、グルコシドがマクロサイクルに結合して、インスリン分子は「閉じた」不活性状態になります。この形ではインスリン受容体へ結合できないので、インスリン作用によって血糖値は下がりません。
血糖値が高くなると、グルコシドが血液中の糖分(グルコース分子)に置き換わります。このグルコースがマクロサイクルに結合することで、インスリン分子の構造が変化し、インスリンの「スイッチ」がオンになります。
血糖値が3mMから20mMに上昇すると、NNC2215のインスリン受容体に対する親和性(結合しやすさ)が3.2倍増加します。つまり、血糖値の変化に応じてインスリンの活性が自動的に調整されるわけです。
論文では豚とラットを用いた実験結果が紹介されていますが、低血糖を起こさずに血糖上昇を抑えることに成功しています。
まだまだ実験段階ですが、これが人間で使えるようになると「血糖値が高いときだけ作用するインスリン」という夢のようなインスリン製剤となり、患者さんを悩ませている低血糖から解放される可能性があります。
低血糖は心血管疾患や死亡率の上昇と関連しているので、インスリン療法を行っている糖尿病患者さんの予後も良くなるかもしれませんね。
(論文はコチラ)
