肥満の患者さんは増え続けていますが、医療従事者がどのようなアプローチをとれば患者さんは痩せることができるのか?
今年、GLP-1受容体作動薬が”やせ薬”として広く認知されるようになりましたが(そのおかげで一部出荷制限のかかった薬もあります)、ダイエットの基本は食事と運動です。
患者さんを上手にコーチングしていくことは肥満患者さんとのコミュニケーションにおいて不可欠です。
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背景:国際的なガイドラインでは、プライマリケアの医療従事者が肥満を認識し、機会を逃さずに治療を提供することが推奨されているが、どのようにして医療従事者が体重について話し、治療を提供すればよいか十分なエビデンスはない。
目的:診察で使用される言葉と患者の体重減少との関係を調査すること。
デザイン:Mixed-Methodsコホート研究(質的・量的研究を混合したコホート研究)。
設定:イギリスの38のプライマリケアクリニックで行われたBrief Intervention for Weight Lossトライアル。
参加者:ランダムに抽出された87人のプライマリケア医が行った、ランダム化臨床試験の介入群から選ばれた246人の肥満患者。
測定項目:246人の肥満患者と87人の医者の間の会話を分析し、12週間の体重管理プログラムの紹介に関する議論が行われた。医者の対話的アプローチを3つに分類し、各アプローチと12か月後の患者の体重減少との関連を調査した(主要評価項目)。二次評価項目は、体重管理プログラムへの同意、参加、体重の5%減少、体重を減らすための行動、および診察後の満足度であった。
結果:医者の言語および準言語的な診察に基づいて、3つの対話的アプローチが特定された。それは、プログラム紹介の機会を「良いニュース」として提示するもの(n = 62)、「悪いニュース」として肥満の健康被害に焦点を当てるもの(n = 82)または中立的なもの(n = 102)であった。57人の参加者のデータが欠落していたため、欠落の調整のために重み付け解析が行われた。中立的なニュースと比較して、良いニュースはプログラムへの参加同意の増加(調整リスク差、0.25 [95%CI、0.15〜0.35])、出席の増加(調整リスク差、0.45 [CI、0.34〜0.56])、および体重変化(調整差、-3.60 [CI、-6.58〜-0.62])と関連していた。悪いニュースと中立的なニュースを比較して平均体重の変化に違いはなく、すべての3つのアプローチで患者満足度に違いはありませんでした。
研究の限界:データは音声のみであり、ボディランゲージや非言語的な手がかりを評価することはできない。選択バイアスや種々の交絡因子の可能性がある。
結論:診察で肥満に関するトピックを取り上げる際、体重減少のための治療をポジティブに提示することは、治療の受け入れと体重減少の成功に関連している。
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誰だって悪いニュースより良いニュースが聞きたいので、この研究結果は真っ当なものだと思うのですが、実臨床に合うかというとそうでもありません。
最終的には患者さん一人一人のキャラクターに合わせたお話をしなくてはなりませんが、良いニュースばかり伝えても肥満改善につながらないことは多々あります。
私の経験上、良いニュース8割、悪いニュース2割くらいにした方が効果的かもしれません。
また、研究は”被験者の平均で結果を検証”します。そんなエビデンスが実臨床では使えないことは日常茶飯事です。
研究の限界で言及されているように、非言語コミュニケーション(顔の表情、身振り手振り、笑い、声の感じなど)は患者さんとの対話でかなり力を発揮するんですよね。
例えば、YouTubeで実況動画を見ようと思ったら、”イケボ”の方が見たくなるのではないでしょうか?
太っている医者から指導されるのとスリムで健康的な医者から指導されるのと、患者さんの受け取り方はどう変わるのでしょうか?
それから、研究期間が12か月しかありません。肥満は数年単位で改善させていくものなので、もう少し長期間みてみないと何とも言えないでしょう。
3年後は中立的なアプローチの方が、あるいはこの研究では検証されていませんが良いニュースと悪いニュースを混ぜたアプローチの方が効果的になるかもしれません。
論文はコチラから(全文は公開されていません)。
