まず知ること

糖尿病患者さんとお話ししていて思うのが、患者さんは必ずしも糖尿病についてよくご存じでないということです。

血糖値を上げるのはほぼ糖質のみですが、特に高齢の患者さんに血糖値を上げる食べ物についてお聞きすると、

「油っぽいもの」「豪華な食事」

などといった答えがしばしば返ってきます。

血糖値を上げるのは「米、パン、いも、麺、果物、お菓子、甘い飲み物」であることを外来では必ずお話しするようにしているのですが、食事に対する誤った考えが固定化してしまい、なかなか理解が深まらない方がいらっしゃいます。

油は血糖値を上げないし、豪華な食事よりもコンビニで簡単に手に入るような炭水化物メインの食べ物が糖尿病を悪化させるのに。

「食べる量を減らしたのに全然血糖値が下がらないんですね。」と仰る患者さんによくよくお話を聞いてみると、肉や油ものを減らす一方、主食が少し増えていたということもあります。

食事”量”を適量にすることも大切なことですが、もっと食べ物の中身―栄養素のバランス(タンパク質、脂質、炭水化物)や”質”に目を向けてほしいです。

孫子の兵法書に、“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”という有名な言葉がありますが、糖尿病をやっつけるためにも極めて有用な言葉です。

糖尿病はどういう病気で何に弱いのか、そして自分の身体はどのような状態で強みと弱みはそれぞれ何なのか?

これをまず知れば、糖尿病を攻略する良い戦略を、必ず立てることができます。

一対多数の講義形式ではあまり理解が深まりません。

病気に関する情報はネットに溢れていますが、ソーシャルメディア等で誤った情報を信じてしまうリスクもあります。

患者さんとお話ししながら、個々の患者さんに合った病気を攻略する戦略を立てるのは、私たち医師の役目です。

医師は正確な診断とエビデンスに基づいた治療を行うことが求められますが、必要な情報の正確さや量に関して、人間はAIに劣後します。

パターナリズムに陥らないように、患者さんと良いコミュニケーションをとることこそが、実はデジタル時代の医師の役割なのかもしれません。