稽古法の考察①

学習効果を高め、知識やスキルの柔軟な適応を可能にするのはdesirable difficultiesであると言われています(David Epstine著RANGEを参照)。

短期的に成果が得られる単純で表面的な学習よりも、初めから実際の応用を想定するような”困難な”学習の方が長期的には知識やスキルが定着し”望ましい”成果が得られる。

というものですが、これは武術の稽古法においても当てはまると考えられます。

例えば、一般的な空手の稽古において、初心者は足を動かさずにその場で突きや蹴りを何回も繰り返す練習を行います。基本となる単純な技を繰り返し、身体の使い方を覚えるわけです。

一方、私が稽古・指導する心体育道では、そのような練習は一切行いません。

初心者は4つの立ち方(後屈立ち・前屈立ち・三戦立ち・騎馬立ち)と12のステップ(足運び)を練習します。

これが初心者にとってなかなか難しいようで、覚えるのに苦労される道場生も多いですが、きちんと出来るようになれば型や組手に幅広く応用できるようになります。また、護身術において、相手、特に体の大きな相手とぶつかり合わないことがとても大切なポイントになるため、初めにステップを練習するということは理にかなっています。

稽古におけるdesirable difficultiesのひとつと考えられますが、立ち方とステップをマスターするのにはそれなりの時間がかかります。

単純な突き・蹴りを練習する方が楽しい、かもしれない(特に子供は)ので、心体育道を学ぶ者にとって最初で最大の”壁”となりますが、ここを乗り越えると稽古は断然楽しくなり技もどんどん上達します。

また、様々な型・技を習得した後に立ち方とステップが最も重要であることに気づき、最初の練習に立ち返ることになります。心体育道では最初に学ぶことが”奥義”なのです。

立ち方とステップがその後に習得する技でどのように使われどんな効果があるかを、実際に技を見せながら具体的に伝えるようにし、道場生の学習効果を高められるように指導しています。