手と道具(武器)の連動

心体育道では体術以外に「杖」と「SMARP(という鞭)」を用いた武器術があります。

(私が入門したころは「木刀」術もありましたが、その後稽古で行われなくなりました。)

廣原先生は「SMARP(鞭)の技は杖術が基になっている。」と仰られており、各武器術の間にも深い関係がありそうですが、ここでは手と道具(武器)の関係について考えてみたいと思います。

攻撃技である突きや打ちは腕を伸ばす動きになります。

おおよそ、上肢全体を伸ばすのが突きで、前腕のみ肘関節を伸ばすのが裏拳などの打ちになります。

この動きを杖(棒きれやほうきでもいい)に応用してみると何の違和感もなく見事にはまります。

道具(武器)の重みや厚みがあるので上手に使えるまで多少の練習は必要ですが、上肢全体を伸ばすと”槍のような突き”になり、肘関節を曲げて伸ばすと”あらゆる角度から繰り出せる打ち”になります。

杖術の場合、剣のように大きく振る動きもありますので、手の技と全く一緒ではありませんが、手を上手に使うことと道具(武器)を上手に使うことは一緒と感じます。

考えてみれば、これは人間の筋肉・骨格・関節の構造上、当然のことですが、何か道具を持って行う動作は初めは難しく感じられます。鉛筆で字を書く、ナイフやフォーク・箸を使って食べる、テニスのラケット、ゴルフのクラブ、野球のバット…etc繰り返すことによって動作が効率的で効果的になっていきます。

最初から効率的かつ効果的に身体操作ができる人のことを「天才」と呼ぶのでしょう。

武術において面白いのは、武器を使うことによって手のみの動きがより効率的かつ効果的になるところです。

武器の重みや厚みを制御するために神経機能や筋力が発達し、それが手のみの動きに反映されるのかもしれません。

また、武器を使うことによって新たな”気づき”も得られます。

例えば、相手との間合いの取り方について。

武器を持てば当然手のリーチが長くなるので、攻撃範囲は広くなります。間合いによって有効な技と有効でない技について考え、理解が深まります。

それから、受けと体捌きについて。

手の受けと武器を用いた受けにも共通点が多いですが、硬い杖や鋭い刃物を手で受けるのは極めて危険かつ困難です。

自分が怪我をしないように、いかに上手く受け流すことが必要か思い知らされます。

力と力が真っ向からぶつかると、物理的な力が強い方が勝つのは必定です。

力のベクトルを考えて受け方と受ける方向を(できるなら)瞬時に判断することが大切です。

武器が身体に直撃すれば大怪我は免れ得ません。下手をしたら命を落とします。

相手の攻撃からいかに逃げるか、体捌きが最も重要であることに気づきます。

普段の稽古の意識が変わり、さらに武術に熟達します。

心体育道では黒帯取得後に武器術を学びます。武器術を学ぶことによっていろいろと理解が深まり姿勢が変わり、武術に対する視野が広がるのではないでしょうか。