MBAについて一息ついたところで、現在履修中のMPHについても言及していきたいと思います。
もともと人類学を志したこともあり、社会学系の学問にはずっと興味を抱いていました。
社会医学や公衆衛生学は医師国家試験の必修科目のひとつですが、医学の中では決して花形の分野ではありません。どちらかというと日陰の分野です。
ただ、日本においても各疾患データベースの構築とビッグデータ分析が政府主導で行われるようになり、この分野は大きな注目を集めています。
さらに、COVID-19パンデミックもあり、公衆衛生学はさらに注目を集めることとなりました。
とはいえ、MPHはPublic Healthとは一体何なのか?を学ぶコースであり、データ分析の手法のみを学ぶわけではありません。データ分析については大学院博士課程および過去の臨床研究において、ある程度学んできたので特に新しい学びがあるわけではありません(Applied Epidemilogyなど統計解析を深く学ぶ講座もありますが、私は受講しない予定です)。
私がPublic Healthを学ぼうと思ったきっかけは、パンデミック対策に関して”モヤっ”としたからです。
例えば、ロックダウン、ソーシャルディスダンス、ワクチン接種キャンペーン、マスク常用、アルコール消毒など、パンデミックを抑えるのに有効とされた種々の対策がありますが、果たしてリアルワールドにおいてどれくらい有効であるのか(であったのか)疑問を禁じ得ませんでした。
質の高い無作為化比較試験のエビデンスも出てるし、有効性は立証されてるやろ!
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも、臨床試験の結果は”整えられた”状況におけるものであり、しばしばリアルワールドの結果と乖離します。この辺は自分で臨床研究計画を立て、研究を走らせた経験がある人には分かると思います。
COVID-19パンデミック対策に関する論文を検索するとそれはもう賛否両論の嵐で研究者の見解は全く一致していません。
製薬会社や関連する企業から資金援助がないか、研究者のバックグラウンドはどうか、など利益相反の問題も大きく、エビデンスは発表された結果通りに鵜呑みにするのは危険です。
それから、研究の再現性でもお話したように、もう一度同じ臨床試験を行っても同じ結果が出るとも限りません。
私は患者さんを診る実地医家ですが、パンデミック対策を主導するのは政府や感染症・公衆衛生学の専門家たちでした。
彼らは他人(主に先行する欧米の研究者たち)が報告した「エビデンス」を論拠に(もちろん我が国におけるエビデンスもありますが)、パンデミック対策を練ってきたわけですが、全体的な視野に欠けていた点は否めないと思います。
また、政府広報やマスメディアを利用したtop-downの情報提供ばかりで、個人やコミュニティーのbottom-upがほとんどなかったように思います。少なくとも私はそう感じました。
パンデミック対策には人々の生活・教育・経済を制限するかなり強いものが含まれますから、必ず人々の同意を得る必要がありますが、説明は不十分でした。
正しい情報を分かりやすく伝えることができる魅力的な人もいませんでした。
健康は、身体的・精神的・社会的(さらにはスピリチュアルもという考えもある)に健やかな状態と定義されます。単に、病気でない状態、ではないのです。
医学の専門家の多くはいかに病気でない状態にするかに囚われていたように思います。致死率の高い感染症であれば仕方のないことですし、対応は難しいと考えますが、リスク-ベネフィットのバランスのとれた我が国らしい道を示してほしかったです。
自分にそれができるか分かりませんが、公衆衛生について学びを深め、人々を幸せにする医療とは何かを知りたくて、University of Manchester Master of Public Health programmeに入学することにしました。
